澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -205-
習近平政権の2年連続軍事予算抑制と経済

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)3月、中国の全国人民代表大会(全人代)で国防予算の伸びが7%前後に決定される。
 1989年以降、同国の軍事予算が二桁伸長にならなかったのは、2010年、昨2016年、そして、今年と3回目である。
 中国のGDP(前年度)と翌年の軍事予算の間には、ある程度、相関関係が見られる(ここでは、中国政府の発表するGDPの数値が一応“正しい”と仮定する)。
 周知の如く、2008年9月に「リーマンショック」が起きた。同年、中国のGDPは9.7%と減速したが、翌09年の軍事予算は14.9%と2桁成長を達成している。
 ところが、09年、中国のGDPは9.4%の伸びにとどまった。そこで胡錦涛政権は、翌10年3月、軍事予算を1桁台の7.5%と抑制した。前年比の約半分である。
 2015年、中国経済の低迷(GDPは6.9%成長)が明らかになり、翌16年、軍事予算は7.6%に抑制された。更に昨16年、景気の好転が見られず(GDPは6.7%成長)、今年も軍事費予算が約7%に抑えられることになった。
 2年連続で軍事予算が1桁の伸びになったのは、1989年以来、初めてとなる。
 いくら中国が“低成長時代”に入ったからと言って、習近平主席の「中国の夢」(世界で覇を唱える)を実現するためには、軍事費を大幅に増額する必要があるだろう(但し、よく知られているように、北京は別項目で軍事費を計上している。従って“実質の軍事費”は、“名目の軍事費”の2~3倍と見られる)。
 一方、米トランプ大統領は、軍事費予算を10%増やすと公言している。米国の軍事費増額は、ISISの壊滅と同時に、習近平政権の東シナ海・南シナ海への“膨張”阻止(場合によっては中国共産党崩壊?)を狙っている公算が大きい。
 同時に、今後、米国経済が活況を呈し、FRB(米連邦準備制度理事会)が更なる利上げを行えば、中国から資金が流れ出す(「キャピタル・フライト」)可能性もある。
 本来ならば、習近平政権は、米国と共に軍事予算を大幅に増額する必要があった。ところが、習近平政権は昨16年に続き、今年も軍事予算抑制を迫られたのである。
 おそらく、中国では依然として「リーマンショック」並みの経済失速が継続している。それを習近平政権は「新常態」(ニュー・ノーマル)と言って憚らない。
 習近平政権は、胡錦涛前政権とは違って、積極財政を行って公共投資を増やし、景気浮揚させる経済政策を採っていない。これはケインズ型の「デマンドサイド経済」ではなく、「サプライサイド経済」を重視しているからに他ならないだろう。
 ひょっとすると、中国共産党としては、中央の財政赤字が悪化して、これ以上の財政出動をできないというのが本音ではないか。
 景気浮揚のカギとなるのは、構造改革だろう。「ゾンビ企業」と言われる多くの国有企業改革を行い、整理する(場合によっては倒産させる)。或いは国有企業を民営化する。そうすれば、暫くして、必ず景気は回復するだろう。
 だが、我々がかねてから主張しているように、仮に、習近平政権が国有企業改革を行えば、必ずや大量の失業者が出る。その際、彼ら失業者らが、新しい産業へ流れれば問題はない。だが、目下、新産業の受け皿が殆ど見当たらないのである。
 大量の失業者創出は、社会不安を増大させる。集団的騒乱事件(「群体性事件」)が益々増えるだろう。
 実は昨年10月に続き、今年2月22日から、退役軍人ら1万人が生活保障を求めて習近平政権に圧力をかけるため、再び北京へ集結している。
 一般の陳情者とは異なり、退役軍人らは体力があり、いざとなれば銃等の武器を使用できる。また、現役の解放軍兵士との繋がりが深い。退役軍人同士の団結力も強い。習近平政権としても、対応が難しいのではないか。
 他方、習政権は海外への資金流出を抑えるのも有効な手段だと思われる。だが、党幹部らが自分の一族を使って、資金を国外へ持ち出している以上、これを止めることは困難だろう。
 中国国内でビジネスに成功した一部大富豪(例えば、曹徳旺)でさえ、同国でのビジネスを諦め、米国をはじめ他国へ投資を行っている。
 習近平政権は、「一帯一路」戦略で外需の取り込みを図るつもりだろう。だが、これも我が国を含め諸外国との熾烈な売り込み競争(例:高速鉄道)が待っている。中国製品は、たとえ安価でも品質やアフターケアに大きな疑問符が付く。そのため、中国の外需伸長も限定的だろう。