「遠い隣人、南北朝鮮」
―北は暴発で自滅、南は左派政権樹立で時代回帰か―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の核兵器開発にかける執念は凄まじいものがある。その結果が何を招来するかは思慮の外という観があるが、あわよくば、北と米国の首脳会談を実現してイランのような核保有国の仲間入りをしようということだろう。しかし事態は、何を何発開発しようが「北を認める」方向には行っていない。寧ろ消滅の危機が近い。
 4発のミサイルを同時に撃つことを見せたのは米、日にとっては衝撃だった。仮に同地点に同時に何発も撃てる能力があれば、迎撃ミサイル「スカッド3」の配備能力が問われる。かつて米国はイスラエルに撃ち込まれた40発をパトリオットミサイルで迎撃したことがある。このような状況を想定して米国は高高度迎撃ミサイル(THAAD)の韓国配備を急いでいる。
 北は既にソウルを一瞬で全滅させるだけの地対地ミサイルを配備している。足の長いミサイル、核の小型化の開発の対象は日本か、グアム、米本土だ。
 北は何十年も前から、核攻撃能力の向上を狙っているため、国連は経済制裁を続けてきた。しかしオバマ政権は「戦略的忍耐」の名で、ひたすら開発を見逃してきただけである。トランプ政権はティラーソン国務長官に韓国、日本を歴訪させて情勢分析をしたが、何が起こってもおかしくないとの認識を示したようだ。
 北の1、2発のミサイルなら、日本でも米国でも迎撃できるし、“お返し”は莫大なものになる。数十発を同時に撃てば、ミサイルが着地する前に、これまた莫大な反撃ミサイルが発射されるはずだ。北は相手に打撃を与えられるが、自国は消滅する。従って日本海や太平洋への威嚇はあるだろうが、直接的な攻撃はない。北の計算を正確にするために米国のTHAADが不可欠な所以だ。
 問題は5月9日と目される韓国大統領選挙で、この選挙で“親北派”が政権を握ることが確実とみられることだ。この際、日米両国が認識を改めなければならないことは、韓国は西側陣営に留まるより、中華圏の一員として、中国に属している方が良いという民族意識が変わらないことだ。36年間の日本統治と若干の空白の後に続いた56年間の米・韓同盟による学習より、それに先立つ500年間の明・清の支配が身に染み付いているということだ。
  米国は日本の民主主義国家への成功を見て、どの国にも自由と民主主義を当てがえば成功すると思っているが、日本では明治維新を前に五箇条の御誓文が発せられた。その第1条は「広く会議を興し、万機公論に決すべし」と既に民主主義の原則が据えられているのである。後進資本主義国家だから、官僚内閣制のマイナスはまだ残っているが、れっきとした三権分立であり、自由と民主主義を支える言論の自由が確立されている。韓国には司法も政治の配下にあり、三権分立はない。言論の自由もない。それを強く求める民族の勢いもない。遠い隣人として付き合うしかない。
(平成29年3月22日付静岡新聞『論壇』より転載)