「先進国並みの官僚制度を」
―“天下り”退治の本質は民間を活性化することにある―

.

会長・政治評論家 屋山太郎

 文科省が天下りの調査結果を発表した。その際、斡旋行為などへの関連で35人を国家公務員法違反と認定し、同省元次官ら37人を処分した。また同省が外務省や内閣府のOBを大学に斡旋したケースも新たに判明した。斡旋を受けた現職のブルガリア大使が辞意を表明した。文科省の振る舞いは“天下り”を禁止するべきだという行政改革の精神を捻じ曲げる不届きなものである。
 日本は中曽根内閣の頃までは、役人が定年になれば、天下るのは当然。しかるべきポストが用意されていたものだ。しかし行政改革の観点から見ると、軒並み不要なポストばかりで、仕事もなく高給を貰うだけの仕組みだった。米欧にはこんな役人天国のような仕組みもポストもない。
 トランプ政権の閣僚人事を見ればわかるように、まず長官を決め、次に補佐官(次官)を決める。役所の幹部級の5000人前後は全て“政治任用”である。欧州各国も似たようなもので、官僚人事は大臣ないし長官の意志で行う。旧体制を倒して革命を起こしたのだから、民意の象徴は政治家のはずだ。この政治家が官僚を起用して政治が行われるのが民主主義の当然の形だ。
 日本は後発資本主義国としてスタートしたから、まず明治政府が官僚制度を作って、産業を興すことまで準備した。鉄が最重要だったから八幡製鉄所を造り、一人前の製品ができるようになると民間に払い下げた。他の製造業も次々に官物払下げを行って“手製”で資本主義を創り出したのである。
 こういう作業を続けてきて、最後に残ったのが3公社5現業だ。ところが、大赤字の国鉄改革に官僚は徹底抵抗した。いつの間にか前近代的である内閣官僚制度が、官僚にとって最も居心地のよいものになっていたからだ。また民間にも官僚崇拝の気風が残っていたから、必要な人材を官界から調達した。
 貿易交渉で日本が外国から“ずるい”と見られるのは他国にない特殊な制度が日本に残っているからだ。米国が言い出した車検制度などは非関税障壁の最たるもので、自動車整備業界が儲かっているだけだ。消費者は丸損。その制度を守るために業界は国交省とグルになって高給ポストを準備する。
 橋下徹元大阪府知事は2011年に大阪市長に当選したあと、府・市合同の「人事監察委員会」を作り、強烈に天下りチェックを始めた。私も若干お手伝いをしているが、大阪府の1999年の指定出資法人は89あったが年々減少。2015年には何と21にまで減った。常勤役員数は157人から41人、(うち、府退職者、出向者は24人)と激減した。民営化するメトロに交通局長が天下ったのでは民間の発想がわからない。
 いびつな官僚制度を先進国並みにし、民間を活性化するのが天下り退治の本質だ。
 東京都など、天下り先は腐るほどある。小池都知事にも徹底した民営化を願う。
  (平成29年4月5日付静岡新聞『論壇』より転載)