澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -217-
トランプ大統領からの習主席へのサプライズ

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)4月6日・7日、習近平中国主席はファーストレディの彭麗媛や側近らを従え、訪米した。
 同年1月20日、トランプが大統領就任後、初の米中首脳会談となった。トランプ大統領は、フロリダの自らの別荘(「マー・ア・ラゴ」)へ習主席を招いている。
 会談前、米中首脳の話し合いは平行線を辿り、合意内容は限られるだろうと予測されていた。しかし、これほどまでに、何の成果も見られない会談も珍しい。
 結局、トランプ大統領と習近平主席の合意事項は、今後100日以内に、米中間の貿易不均衡を是正する目標と計画を立てるだけだった。後は、米中の軍事衝突を避けるため相互対話機構を作るくらいである。
 本来ならば、緊急課題である北朝鮮の核・ミサイル開発問題、その他、韓国のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備問題、中国の南シナ海への膨張問題、「一つの中国」問題、中国の人権問題等が、話し合われるはずだった。しかし、米中首脳が、自らの主張を述べ合うだけで、お互いに反応しなかったと伝えられている。
 『蘋果日報』(同年4月8日付)によれば、会談中、習近平主席が話している間、トランプ大統領はイアフォンを付けなかったという(同大統領が中国語を聞き取れるわけはない)。
 初めからトランプ大統領は、習近平主席の主張を聴くつもりはなかったのだろう。わざと習主席の話を無視している。
 トランプ大統領は、6日の歓迎晩餐会の際、「私達は長い間話し合ったが、未だ何も成果が得られていない」と率直に述べた。
 一方、今回の米中首脳会談では、トランプ大統領が事前に習近平主席に用意していた“サプライズ”があった。当日の晩餐会時、トランプ大統領はシリアに対し、巡行ミサイル「トマホーク」の発射命令を下したのである。
 米国は、最近アサド政権が化学兵器を使用したという証拠を握っていた。翌7日も、米中首脳会談が控えていたのである。このタイミングで、米国は故意にシリアを攻撃した。無論、攻撃は7日の米中会談後でも良かった。
 トランプ政権は、習近平政権に対し、北朝鮮問題で何らかのアクションを起こさなければ、米国は単独でも北を攻撃するぞとの警告だった。
 周知のように、オバマ前大統領は、シリア紛争に関して極めて慎重な姿勢を保った。ところがト、ランプ大統領は一転して、シリアに対し強硬姿勢を取ったのである。
 世界に衝撃が走った。すぐさま、アサド政権を支えてきたロシアのプーチン大統領やイランのロウハニ大統領は「国際法違反」だとして、不快感を露わにしている(ロシア側の発表では、米国の59発のミサイル中、23発しか着弾しなかったという)。
 習近平主席や側近にとっても“青天の霹靂”だったに違いない。だからと言って、「太子党」の北京政府が、「上海閥」の支援を受けている金正恩政権をすぐにどうこうできるはずもない。また、金王朝崩壊は、朝鮮半島の混乱を招く。従って、習主席も米国の行動に「理解を示す」以外の選択肢はなかっただろう。
 この米国によるシリア攻撃は、同国を挑発し続ける北朝鮮の金正恩委員長に対する“脅し”に間違いない。早速、トランプ大統領は、米原子力空母カールビンソンを朝鮮半島海域へ向けている。
 今でも「瀬戸際政策」を採る金委員長は、その点を1番理解しているだろう。北朝鮮も、今度の米国によるシリア攻撃を「明白な侵略行為だ」と非難している。
 今後、トランプ政権は、シリアへの攻撃を強める公算は大きくないのではないか。それよりも、同政権の次のターゲットは、北朝鮮である。
 北朝鮮の核・ミサイル開発を脅威と感じるトランプ政権としては、(1)特殊部隊による金正恩委員長「斬首作戦」(金委員長だけを暗殺する)(2)ステルス爆撃機、或いは巡航ミサイル「トマホーク」による北の核・ミサイル施設の空爆等が考えられる。
 米軍が(1)の作戦で成功すれば、おそらくワシントン・北京・ソウル、そして安倍政権にとって、“ベスト”のシナリオだろう。ひょっとして、金正恩委員長が別の人間に替われば、核・ミサイルの開発が止むかもしれない。
 但し、「上海閥」が「太子党」の北京政府を揺さぶるために、北朝鮮に核・ミサイル開発をさせているのならば、話は別である。その場合には、誰が北のトップになっても状況は殆ど変わらないだろう。
 他方、米軍が(2)の作戦を強行した場合、成功しても失敗しても、たちまち朝鮮半島で戦争が勃発する可能性が高い。その場合、我が国も戦争に巻き込まれる恐れもある。