澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -220-
米朝間で高まる更なる緊張

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 周知の如く、現在、米国と北朝鮮の間で、徐々に緊張が高まっている。
 「瀬戸際政策」を採る北朝鮮が、米国(及び日韓)を威嚇する核・ミサイル開発を中止する気配が見られない。
 そこで、米トランプ政権はオバマ政権下での「戦略的忍耐」政策を捨て、武力行使しても、北の挑発を阻止する構えである。
 他方、中国共産党は、朝鮮半島有事として、(1)米軍の金正恩「斬首作戦」(2)米朝間での核使用(3)米朝の通常兵器による戦争―の3つのシナリオを描いているという。
 また、朝鮮半島有事に備えて、中国人民解放軍「北方戦区」の陸・海・空の将校200人が集結したという情報もある。
 今年(2017年)4月15日、故・金日成主席の105回目の生誕記念日(太陽節)の翌16日早朝、北朝鮮は中距離ミサイルを試射した。しかし、打ち上げと同時に失敗した模様である。
 この試射が成功していたら、米国は北朝鮮に対し、「斬首作戦」、或いは「核・ミサイル施設空爆」を実行していたかもしれない。北のミサイル試射が失敗したので、ワシントンは対北攻撃を行わなかったと見られる。
 そのため、我が国の安部政権や韓国青瓦台も、取り敢えずホッと胸をなで下ろしているのではないか(金正恩委員長は、もし何もしないと面子が保てないので、取り敢えずミサイルを発射し、“故意に失敗”したという説もある)。
 だが北朝鮮は、依然4月に重要日程(例えば、25日の建軍節)が控えている。このまま北朝鮮が核・ミサイル実験を継続すれば、トランプ政権も看過できないだろう。
 仮に、北朝鮮が米軍の猛攻を受ければ、世界地図から消滅する恐れがある。それにもかかわらず、金正恩委員長は核・ミサイル開発を止めないのは何故か。おそらく、止めたくとも、止められないのかもしれない。
 第1の仮説として、正恩委員長の父親、故・金正日時代から現在に至るまで、一貫して北は核・ミサイル実験を繰り返してきた。そのため、“慣性の法則”が働き、今更それを中止できない状況なのかもしれない。
 北朝鮮には、最終的に、米東海岸まで届く核弾頭付きの大陸間弾道ミサイル(ICBM)でワシントンを恐喝し、“対等の立場”でホワイトハウスと話し合いを行うという大目標がある。
 金体制は、その目標を達成するまで、核・ミサイル開発を継続するつもりではないだろうか。
 次に、第2の仮説だが、中国共産党の党内闘争が北朝鮮で起きている可能性も排除できない。
 言うまでもなく、中国は北朝鮮と関係が深い。ただ、我々が常々主張しているように、中国は決して「一枚岩」ではない。2グループが存在し、その2つが対北政策で真っ向から対立している。
 金正恩委員長を嫌っている北京政府(「太子党」の習近平主席中心)と金王朝を支えている江沢民系「上海閥」(旧瀋陽軍区の現「北部戦区」)の2派閥である。
 前者は、金委員長にすぐにでも核・ミサイル開発を凍結して欲しいだろう。中国国内では、低迷する景気をはじめ、問題が山積しているからである。習政権は、北朝鮮問題に没頭するわけにはいかない。それに、今秋、中国共産党第19回全国代表大会(19大)が開催される。
 後者は、北に核・ミサイル開発を続けさせ、ワシントンのみならず、北京をも威嚇しようとしている(彼らこそが中国国内で北の技術員に核・ミサイル技術を学ばせた)。
 「反腐敗運動」で勢力が衰えつつある「上海閥」が、国際的に習近平政権の面子を失わせるため、わざと北でトラブルを起こしているとも考えられよう。彼らは19大での人事の巻き返しを狙っているのかもしれない。
 実際、中国は北の行動を抑制させようとしているのか、それとも北を支援し続けるのか、定かではない。おそらく両方だろう。中国の対北朝鮮政策に、しばしば矛盾が生じるのは、そのためである(但し、北京政府・「上海閥」両者ともに、最低限で朝鮮半島の「現状維持」が可能ならば、北朝鮮主導の「半島統一」を模索しているのではないか)。
 けれども、金正恩政権が、このまま“暴走”を続ければ、或いは「上海閥」が金政権を操ったままだと、トランプ政権が北朝鮮を攻撃するのは時間の問題かもしれない。