澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -222-
郭文貴が暴露した中国共産党の党内闘争

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2017年)4月18日、北京政府は、国際刑事警察機構(INTERPOL)を通じて、米国へ逃亡中の中国の大富豪、郭文貴(別名、郭浩雲。1967年生まれ)を指名手配した。翌19日、外交部スポークスマン、陸慷が定例会見で発表している。
 同日、郭文貴はVOA(Vice of America。「美国之音」)で3時間話す予定になっていた。だが、郭の話は約1時間で突然、打ち切られたのである。
 慌てた中国共産党が各方面から圧力をかけ、VOA番組を中断したのではないか。或いは、VOAの中にいる中国共産党のエージェントが、これ以上郭文貴に話をさせるとまずいと判断して、番組を打ち切ったのかもしれない。
 さて、郭文貴とは一体どんな人物なのか。郭は、山東省聊城市莘県の出身である(中国では、しばしば市の中に県がある)。郭は中学卒業後、高校へ行かなかった。
 1992年、郭文貴は、河南大老板家具工場の董事長となっている。翌年、郭は香港愛蓮有限公司を夏平と共に立ち上げた。
 その後、96年、郭文貴は鄭州偉仁貿易有限公司を、98年には、俳優の朱時茂と一緒に、北京文茂投資顧問有限公司を設立した。
 2001年、朱時茂が事業から撤退した際、郭文貴も株を他人に譲渡した。その会社は、北京摩根投資有限公司と名称を変え、最終的に、北京盤古氏投資有限公司となった。
 翌02年、郭文貴は、北京政泉置業有限公司を立ち上げた。その後、名称は北京政泉ホールディングス有限公司へと変更されている。
 2008年、北京オリンピック開催前、郭文貴は開発事業を手掛ける際、カネと女性で北京市副市長・劉志華を篭絡した。2006年に劉志華は失脚する。当時、王岐山が北京市長(2003年4月-2007年11月)だったのである。
 郭文貴は、1999年頃と2005年頃、2度逃亡しているが、何故か当局に逮捕されていない。
 2013年12月、郭文貴は、国家安全部元副部長の馬建への贈賄(6000万元=約9億円)の疑いで、中央紀律検査委員会の事情聴取を受ける手筈になっていた。けれども、郭文貴は香港経由で再び海外へ逃亡した。現在、米国で逃亡生活を送っている。
 江沢民の大番頭、曽慶紅は、馬建を通じて、郭文貴をコントロールしていたとも言われる。
 そうすると、江沢民系の「上海閥」が郭文貴を利用し、習近平政権(「太子党」中心)に対し、巻き返しを図っているのかもしれない(ひょっとして、郭は国家安全部に所属か?)。
 かつて郭文貴のマスコミに語った話は、以下の通りである(但し、郭文貴の話は信憑性に欠けるきらいがある)。
 第1に、郭文貴は、王岐山(中央紀律検査委員会書記)と胡舒立(「中国で最も危険な女性」と言われた)の関係を暴露した。胡舒立が王岐山の私生児を産んだというが、事実は不明である。
 第2に、郭は、賀国強(前政治局常務委員兼前中央紀律検査委員会書記)と傅政華公安部副部長は腐敗しているという。賀国強の息子、賀錦涛は、北大方正集団(国有企業)の黒幕の株主である。また、傅政華は、北大方正の元CEOである李友(昨2016年11月、4年半の実刑判決を受ける)や郭文貴に賄賂を要求して来たという。
 第3は、郭によれば、そのため、習近平主席は、片腕の傅政華(上述の如く、郭文貴から腐敗していると名指しされている)を使って、今度は習主席の盟友、王岐山と孟建柱(中央政法委員会書記)の腐敗の調査を開始したという。
 王岐山の家族は、妻の姚明珊、妻の妹、姚明端、及び甥の姚慶が海南航空の株を所有しているという。他方、孟建柱は、香港華潤港元董事長である宋林の腐敗事件と関わっていて、孟には何人もの愛人がいると言われる。
 なお、郭文貴の話では、習近平主席は「自分は王岐山や孟建柱を利用はしているが、信用していない」と傅政華に語ったという。もし、郭文貴の話が本当ならば、一心同体の「習王連合」は虚構かもしれない。
 よく知られているように、王岐山は中央紀律検査委員会のトップとして、多くの幹部らを失脚させ、牢獄へ送った。また、その取り調べに耐えられず、沢山の幹部が自殺している。
 ところが、その王岐山自らが腐敗していたとなれば、共産党内に激震が走るだろう。当然、今秋の中国共産党第19回全国代表大会での人事にも大きく影響しよう。
 もっとも、習近平主席自身及び一族も腐敗しているのは、まず間違いない。中国共産党の腐敗は今や“骨がらみ”である。
 以前から我々が主張しているように、警官の仮面を付けた泥棒が、正義を振りかざして他の泥棒を捕まえる光景は、世も末だろう。既に中国には清潔な政治家・官僚は皆無なのだろうか。