澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -223-
中国の人気ドラマ『人民的名義』(上)

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2017年)3月28日〜2017年4月28日、湖南衛視がテレビドラマ『人民的名義』(仮訳『人民の名にかけて』。事実上、全52話)を放映した。周梅森の同名の小説を、李映監督が名優を揃えて作り上げている。
 ストーリーの概要は、以下の通りである。
 主人公の侯亮平は、最高人民検察院からの命令を受け、北京から漢東省(架空の省)へ派遣される。同省高官の腐敗を暴くためだった。
 また、漢東省委員会新書記(同省トップ)である沙瑞金も、中央から派遣されてまだ3ヵ月しか経っていなかった。沙瑞金は高潔な人物であり、侯亮平を高く評価していた。因みに、沙の前の漢東省委員会書記は趙立春だった。
 京州市(架空の市)副市長の丁義珍は、腐敗していた。丁は、漢東省検察院の手が伸びてきたのを察知し、中国を脱出して米国(ロサンゼルス)へ向かった。しかし丁義珍は、かつての人脈も使えず、当地で清掃員として過酷な生活を送る。最終的に、丁義珍は金儲けのためにアフリカへ行くが、同地で射殺されている。
 侯亮平の小学校時代の同級生、蔡成功(漢東省大風服装工場董事長)は、工場の経営に失敗し、工員らの株まで売却した上で、逃亡を試みる。しかし、蔡は逃げ切れず、公安と検察に身柄を拘束された。
 その際、蔡成功は李達康(漢東省常務委員、京州市<架空の市>委員会書記)の離婚した妻、欧陽菁(京州城市銀行副行長)の腐敗を指摘した。
 李達康は、海外逃亡を図る元妻の欧陽菁を空港まで自分専用車で送ろうとする。その時、侯亮平らは、先回りして料金所で検問を行い、李の目の前で欧陽菁を逮捕している。但し、李達康自身は、決して悪い人間ではなかった。
 さて、侯亮平が学んだ漢東大学政法系の恩師、高育良は漢東省委員会副書記、及び同省政法委員会書記の要職に就いていた。
 高育良は、漢東大学閥(=「幇」)を形成していた。高の学生、祁同偉は侯亮平らの大学の先輩であり、漢東省公安庁庁長を務めていた。また、同じく、高の学生(祁同偉の後輩)、陳海(父親は元漢東省人民検察院常務副検察長の陳岩石)は、漢東省人民検察院腐敗防止局局長だった(山水集団財務所所長、劉慶祝の腐敗を報告後、暗殺未遂に遭い、一時、植物人間となる)。
 陳海を慕っていた陸亦可(有能な女性で、漢東省人民検察院腐敗防止局意第一所所長)もやはり漢東大学政法系出身である。
 侯亮平や陸亦可らは、腐敗した漢東省の高官やその親族を法律に基づき、次々と取り締って行く。そのため、侯亮平は、恩師の高育良や大学の先輩である祁同偉とも摩擦・軋轢が生じた。
 もともと、大学教授だった高育良は、梁群峰(元漢東省委員会副書記、漢東省政法委員会書記)に導かれて、政界へ転じた。梁群峰は、祁同偉の妻、梁璐(漢東大学政法学院党支部副書記)の父親であり、高育良と祁同偉の後見人だった。
 ところで、逮捕・拘束されていた蔡成功は、突然、侯亮平がかつて蔡から収賄したと虚偽の報告を行った。これをチャンスと見た高育良と祁同偉らは、侯亮平は漢東省の実情を分かっていないとして、職務に忠実な侯を陥れようとする。
 そのため、一時、侯亮平は漢東省での職を解任され、北京へ戻されそうになった(その際、侯の妻、鐘小艾<中央紀律検査委員会某室副主任>も漢東省へ来て、同省の腐敗を調査する)。
 けれども、沙瑞金(漢東省委員会書記)、季昌明(漢東省人民検察院検察長)、趙東来(京州市公安局局長)などの清潔で人格者らの尽力で、侯亮平は腐敗の疑いを晴らすことができた。
 最終的に、侯亮平らは、高育良と祁同偉、及び趙瑞龍(前漢東省委員会書記、趙立春の息子で恵龍集団董事長)や祁同偉の愛人、高小琴(山水集団董事長)達を腐敗で摘発している。
 実は、高育良は前妻、呉恵芬(漢東大学明史教授)と6年前に離婚していたが、お互いの体裁のため、同居していた。高育良は高小琴の妹で香港に住んでいる高小鳳を妻として迎えた。そして、小鳳は子供1人を産んでいる。
 他方、祁同偉は、かつて死を賭して犯人を捕まえ、一時、英雄となった場所へ逃げた。だが、侯亮平らに追い詰められた祁同偉は、自殺を遂げている。