澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -225-
「一路一帯」国際サミット

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)5月14、15日、北京で「一帯一路」国際サミットが華々しく開催された。29の国家元首・首脳、約130ヵ国の政府官員及び世界の富豪やビジネスマン約1500人以上が参加している。
 この「一帯一路」構想は、2013年9月と10月、習近平主席が、中央アジアのカザフスタンと東南アジアのインドネシアを訪問した際に打ち出したとされる。
 自由亜洲電視台の胡少江が指摘したように、今回の「一帯一路」国際サミットは、今秋、中国共産党第19回全国代表大会(19大)が開かれるので、習近平主席による、その前の権威付けのためのデモンストレーションだと考えられよう。いわば習近平主席が掲げた「中国の夢」の延長でもある。
 しかし、「法治」概念の希薄な中国主導の国際秩序形成(「パクス・シニカ」=中国による平和)は極めて難しいだろう。
 今度の国際サミットには、ロシアのプーチン大統領をはじめ、29ヵ国から国家元首や代表が集まった。しかし、G7では、イタリアのパオロ・ジェンティローニ首相だけが参加した。他のG7の首脳は、誰も参加していない。更に、インドも不参加だった。
 一応、米国も同国際サミットへ代表を派遣したので、習近平主席の面子は辛うじて保たれた格好である。だが、北京政府はトランプ政権から米カード会社の市場参入、及び牛肉の市場開放を迫られる事になった。
 「一帯一路」構想が持ち上がって以来、既に5兆人民元(約75兆円)あまりが投じられている。だが、程暁農が鋭く指摘したように、過去3年来、「一帯一路」では、全部で5つのプロジェクトしか完成していない。
 (1)サウジアラビアの石油精錬所
 (2)バングラデシュの橋
 (3)パキスタンの道路
 (4)トルコで埠頭を購入
 (5)中国国内で天然ガスダクトの補修
  ―である。
 その他、現在、6つのプロジェクトが行われているに過ぎない。これらの多くが、中国大型国有企業が参加している。
 計画時には、投資が巨額なのだが、実行段階になると、投資額が少なくなる傾向にある。その原因は、最近、中国の外貨準備高が著しく減少している点にあるだろう(その遠因は、中国経済の低迷にある事は間違いない)。
 陳破空が喝破したように、北京政府は「一帯一路」で国内の過剰生産を消費し、中国経済の衰退危機やリスクを転嫁しようとしている。
 また、北京政府は対外投資によって、国内企業、取り分け国有企業の発展を促すつもりだろう。中国経済は、内需が行き詰まっているので、外需に期待するしか方法がない。
 一方、習近平政権は、中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)の活用を促す狙いがあると見られる。同時に、人民元の国際化を目指しているのではないか。
 さて、この「一帯一路」は、陸のシルクロード(一帯)では、中央アジアでイスラム国家を通過しなければならない。また、ロシアの陸上の戦略拠点とも重なる。
 また、海のシルクロード(一路)では、地中海やインド洋を含み、米国の海洋戦略ともバッティングする。
 従って、「一帯一路」は、地政学的に中国対ロシア、中国対米国、中国対イスラム国家等の間で衝突する危険を孕んでいると言えよう。
 今回「一帯一路」国際サミットを開催するに当たり、習近平政権は、北京への陳情者を排除している。最近では、屡々退役軍人の陳情が起きている。個人の陳情ならいざ知らず、これも排除するとなれば、大騒動になる恐れもあるだろう。
 2016年9月、「G20杭州サミット」が開催された際、杭州は厳戒体制が敷かれた。そのため、市民の生活に支障をきたした事は記憶に新しい。同サミットでは、約3兆円が使われたという。
 今度のサミットでは、7000億人民元(約10.5兆円)が使われた。その中には「シルクロード基金」として、1000億人民元(約1.5兆円)が入っている。
 今回も北京では厳戒体制が敷かれ、「五輪晴天」と同じ状態を作り出すため、企業活動は暫く中止された。北京市民にとって良かった事は、工場の停止でPM2.5が下がったぐらいではないか。
 北朝鮮が中国の「一帯一路」国際サミット開催当日(14日)に、新型ミサイル「火星12」を発射した。射程4500~5000キロの中距離弾道弾(IRBM)と見られる。金正恩委員長自身、或いは「上海閥」から命令を受けた金委員長による習近平主席への嫌がらせだと考えられよう。