澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -227-
中国「19大」前の4つの挑戦

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 2017年6月7日付、米『ニューヨークタイムズ』紙に、鄧聿文の「中国『19大』前の4つの挑戦」という論文が掲載された。大変よく纏まっているので、概略を紹介したい(一部、筆者の解説が入る)。
 この鄧聿文(49歳)は江西省新余市出身で、中国国民党革命委員会(所謂、国民党「左派」)に所属している。そして鄧は記者、作家、評論家という肩書を持つ。
 さて、鄧によれば、中国共産党第19回全国代表大会(「19大」)前にして、習近平政権は「4つの挑戦(課題)」に直面しているという。 それは、(1)人事に対する挑戦(2)思想イデオロギーに対する挑戦(3)改革に対する挑戦(4)経済成長に対する挑戦である。

第1「人事に対する挑戦」
 (a)習近平政権による恣意的な「反腐敗運動」のため、今秋の「19大」の布陣に狂いが生じる可能性がある。今後、どんな大物(大トラ)が中央紀律検査委員会に調べられ、失脚するのか分からない。
 (b)王岐山(今秋には69歳)の去就である。「七上八下」(67歳までならば、政治局常務委員に留まれる。だが68歳になれば、同委員に留まれない)という党内ルールがある。これに従えば、王は政治局常務委員を引退せざるを得ない。
 ただ、習近平主席が「反腐敗運動」継続させるには、王を留任させる必要がある。しかし、最近一転して、習主席が腐敗した王とその一族の調査を始めたと伝えられている。つまり、習主席が王を切る公算も捨てきれない。
 (c)所謂「第6世代」のホープ、胡春華(広東省委員会書記。「共青団」)と孫政才(重慶市委員会書記。賈慶林や温家宝に近いと言われる)が政治局常務委員に就任するか否かだろう。
 もともと、胡と孫は胡錦濤時代から将来を嘱望されていた2人である。逆に、胡と孫が政治局常務委員に就任しないならば、習主席の「独裁化」は更に強まるかも知れない。
第2「思想イギオロギーに対する挑戦」
 習近平体制発足以来、習主席は「中国の夢」や「4つの全面」を掲げてきた。
 習近平主席の「中国の夢」とは、「偉大なる中華民族の復興」であり、具体的には「富国強兵」、「民族振興」、「人民の幸福」を目指す。但し、最後の「人民の幸福」については大きな疑問符が付く。中国では2014年頃から景気が悪化し、人々の生活が苦しくなっているからである。
 他方、「4つの全面」とは、(a)全面的な「小康社会」(ややゆとりのある社会)の建設(b)全面的な改革の深化(c)全面的な法治国家の推進(d)全面的に党を厳格に治める――を指す。
第3「改革に対する挑戦」
 2013年11月、「18期3中全会」が開催されて以降、習近平政権は全面的な改革を目指した。ところが、シナリオ通りには進んでいない。
 例えば、国有企業に関して言うと、その「近代化」が唱えられた。しかし、計画倒れになっている。
 統治の観点からすれば、政権第1期目は政権内の基盤固めに精力を注ぐ。同時に、部下の育成にも力を入れるために、他の改革が進まない。
第4「経済成長に対する挑戦」
 中国は高度成長期を経て、今や中成長期、ないしは低成長期に入っている。国際金融危機や景気循環等の外部要因の他、中国で改革が停滞しているためだろう。
 また、人民や企業への重税、政府の過度な関与、(減少傾向にあった)国有企業の再伸張等の一方、株やマンションの高騰で中国はバブル経済に陥っている。多数の民間企業が倒産し、もはや今の中国経済にかつての栄光は見られない。
 北京政府は、新しい産業を創出し、新しい企業を立ち上げようとしている。同時に、企業の税負担を軽くし「サプライサイド経済」で改革を行っているが、景気減速が下げ止まらない。
 中国の高度成長期には、貧困層(約7、8億人と言われる)にも多少の恩恵が得られた。だが、景気が低迷している現状では、貧困層にまで恩恵が回らない。そのため、人々の間で不平等感が増し、不満が増大している。
 北京政府は、政治改革が民衆の民主化要求運動に繋がるのを恐れている。従って、経済改革で政治改革を代替しようとしているが、経済成長できなければ、共産党政権はその「レゾン=デートル」(存在理由)を厳しく問われるだろう。
 言うまでもなく、現在の中国では民衆の政治参加(選挙やデモ・ストなど)や司法の独立もない。
 かかる状況下で、今秋、「19大」が開催される。