澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -228-
香港での「六四天安門事件」28周年

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)で、「六四天安門事件」(以下、「天安門事件」)28周年になる。
 周知のように、毎年香港では、大規模な「天安門事件」を追悼するデモが行われている。これほど大きなデモが継続される事は珍しい。
 今年6月3日夕方、香港中文大学学生会がFacebook上で、『六四情不再、悼念何時了』(仮訳:『もはや「天安門事件」への想いはない。追悼をいつまで続けるのか』という文章を掲げた。「天安門事件」再考の手がかりになるかも知れないので、その概略について紹介しよう。
 同学生会は、「天安門事件」追悼活動組織者は、民衆の道徳感情を利用して、香港の政治基盤を毀損していると批判した。そして、香港人から中国への祖国愛を除去しなければならないと公言している。また、同学生会は、香港人の属する政治勢力が活動を始めるのは、香港人に「本土化思想」を注入するプロセスであり、願いでもあると考えている。
 そして同学生会は、香港市民に「天安門事件」追悼記念集会への不参加を呼びかけたのである。香港中文大学学生会の問題提起は、香港での「天安門事件」追悼に一石を投じる形になった。
 その学生会の声明が、「天安門事件」追悼記念行事に対し、果たして影響を与えたかについては疑問符が付く。但し、そのためかどうか不明だが、今年は例年よりも少なめの11万人の追悼デモ集会に終わった。
 同学生会の主旨は、現在香港には「本土化思想」(トランプ流“アメリカファースト”ならぬ“香港ファースト”)や「香港独立思想」が出現している。
 後者は、(中国共産党の支配下にはない)台湾とは違って、「一国二制度」下、中国からの独立を目指している。
 後述するが、香港の中国からの独立は相当な困難が予想される。いざと言う時のためか、既に中国人民解放軍も香港に駐在している。
 ただ、「本土化思想」や「香港独立思想」は、両者共に、中国共産党統治下の大陸とは一線を画し、(香港の中国返還時の国際公約である)香港独自の自由・民主を守ろうとする。従って、両者の間には必ずしも大きな違いはない。
 これらの思想は、無論、中国共産党や香港政府を震撼させている(万が一、大多数の香港人が「香港独立」を唱えて立ち上がったら、北京政府といえども弾圧しにくい)。
 (中国共産党を含む)歴代中華王朝は、帝国領土の分裂を心底恐れている。中華帝国の「大一統」(或いは「大統一」。)こそが“善”、その分裂は“悪”という一種のドグマから来ているのだろう。
 さて、第二次大戦後、英国領香港は「借りた場所 、借りた時間」と言われた。中国人が大陸から香港にやって来て(或いは逃げて来て)、そこで成功を収めた者は、イギリス・カナダ・オーストラリアへ移住するのが定番だった。
 ところが21世紀に入り、SNS(Facebook、YouTube、Twitter、Instagram等)が発達し、「新人類」と呼ばれる人々が出現した。そのため、香港の状況は一変したのである。
 彼らの特徴は、自撮りに象徴されるように「自分大好き」で、自己の写真を何の躊躇いもなくネット上に晒す。同時に、彼らは自分の生まれ育った場所が大好きである。「郷土愛」が強い。台湾同様、香港でも「郷土愛」の強い新人類が誕生した。
 当然、多くの若い香港人にとっては、香港こそが我が「祖国」である。そして、自分達は中国大陸とは何ら関係ないと考える傾向にある。
 問題は、「一国二制度」下にある香港が、中国から独立できるか否かだろう。
 自由アジア電視台の胡少江によれば、香港が現在の香港のままでいるためには、香港人が中国大陸の人々と連携し、今の中国共産党政権を打倒するしか道はないと主張する。
 確かに「天安門事件」以降、江沢民政権、胡錦濤政権、習近平政権と続いたが、中国の「民主化」への道のりはあまりに遠い。
 香港人は中国の「反体制」人士と共に、「独裁化」を志向する習近平体制を打倒する以外、「香港独立」への道はあり得ないのかも知れない。
 けれども、習近平政権打倒後、中国大陸に自由・民主を尊重する新政権が樹立される保証はどこにあるだろうか。