ベトナム及び台湾との間で拡大する留学生交流

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顧問・元ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 留学生に関する統計は実に分かりにくい。日本から海外に留学する学生の数が大きく減少していると言われて久しい。確かに、OECD等が毎年発表している国別留学統計によれば、日本人学生の海外留学は2004年の82,945人をピークに、その10年後の2014年には53,197人まで減少している。ところが、日本学生支援機構(JASSO)が集計している海外への日本人留学生数は全く逆の傾向をたどっており、2009年度に36,302人であったものが、年々増加し、2015年度には84,456人まで大幅に増加しているのである。勿論、統計の取り方の違いによって数は異なる。OECD等の場合は、加盟各国が受け入れている外国人留学生の数を個々に報告させ、これを出身国別に再集計したものである。これに対して、JASSOの場合は、日本の各大学に海外留学している学生数を問い合わせて、これを集計しているので、OECD等の統計との一定の誤差は避けられないし、「留学」の定義にも国別に違いがあって、これに起因する数字の差異もあろう。しかし、それにしても、2つの統計の間で、過去10年近くにわたる日本人学生の海外留学状況に全く逆の傾向が出てくるのは理解に苦しむことである。

 こうした、留学生統計に関わる問題を一応認識した上で、近年、日本と台湾との間の留学生交流がどのように進展しているのかを見ると、興味深い傾向が見られる。先に言及したJASSOの統計によれば、昨年5月1日現在、日本から台湾に留学している学生数は3,487人で、留学先別で第7番目だが、OECD等の統計では5,816人(但し、2014年)で、米国、中国に次ぐ国別第3位になっている。因みに、JASSOによれば、同じ2014年度における日本から中国への留学生数は4,765人であるから、中国語圏への留学という点から言えば、今や、実態において、台湾が中国(中華人民共和国)を追い越している可能性がある。両者を近年の増加率で比較すると、中国への留学生数は2010年から2015年の5年間で1.28倍に止まるのに対し、台湾の場合は3.57倍に著増している。この間の留学生総数は2.0倍に増えているから、中国への留学の相対的減少と台湾への増加が著しい対照をなしている。

 他方、中国や台湾から留学目的で訪日している学生数を見ると、昨年5月1日時点で、中国人留学生が98,483人、台湾人留学生が8,330人と両者に大差がある。勿論、中国と台湾の間には人口において58倍以上の開きがあるから、人口比で比較した日本留学率で見れば台湾からの留学生は中国の場合の5倍近いということになる。また、同じJASSOの統計を使って留学生数の増加状況を比較すると、2011年から2016年の5年間で、中国から日本への留学生数は1.13倍とほぼ横ばいで推移しているのに対して、台湾の場合は1.82倍に増えている。日台間の留学生交流は、近年、双方向で大きく増加しているのである。

 次に、ベトナムの場合を見てみたい。こちらは、更に変化が激しい。昨年5月1日時点のベトナムから我が国への留学生数は53,807人で国籍別第2位、その5年前の2011年(4,033人)と比較して、何と13.34倍も増加している。この数字をベトナム側から見ると、昨年11月時点の総数13万人の海外留学生の中、日本への留学生が38,000人で最も多く、オーストラリア(31,000人)や米国(28,000人)を抜いて留学先別で第1位になっている。ベトナムの人口は日本の4分の3ほどに過ぎず、経済的には遥かに貧しいにも関わらず、海外への留学生数で日本の2倍近くに上っているのは驚きである。日本への留学生の増加という点ではネパール人の増加も著しい(19,471人で国籍別第3位)が、これは日本における学生アルバイト環境と無関係ではないかも知れない。厚生労働省が発表している外国人雇用統計を見ると、近年、留学生のアルバイト件数が大幅に増加していることが分かる。ベトナム人留学生の場合は平均して1人で1.5ヵ所、ネパール人留学生の場合は何と平均1人2ヵ所でアルバイトをしている計算になり、特に日本語学校に通う留学生(ベトナム人の47%、ネパール人の31%)の場合は訪日目的が疑われるような状況になっている。そう言えば、最近、コンビニや小料理屋に行くとレジやウェイターとして働いている人の多くが外国人であり、一見して留学生のアルバイトと思われるケースも少なくない。ここ数年、新聞や雑誌で外国人労働者の受け入れ問題が盛んに論じられているが、技能実習生の増加(昨年末時点で23万人)と相俟って、日本の職場では需要と供給の原則に沿って外国人労働者の受け入れはどんどんと進んでいるように思われる。
  
 なお、今回、日本人の海外留学統計を見ていて、いくつか新たに気付くことがあった。1つは、「海外留学」といってもその大半が1ヵ月未満の短期留学であること(1年以上の長期留学は今や全体の2%に過ぎず、このことは本稿の冒頭で疑問を呈した日本人留学生の増減傾向に関する2つの統計の違いを理解する鍵になるかも知れない)。2つ目は、男女別で見た場合、3分の2が女性であり、男性の割合に減少傾向が見られること、3つ目は、中国・韓国・台湾に加えタイ、フィリピンといったアジアの国々への留学が増え、総数で北米(米国・カナダ)とほぼ同数になっていること。特に、男性の場合は留学先としてアジアが北米を上回っている。日本人の海外留学事情も年々大きく変化しているようである。