澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -238-
法輪功以来、北京で抗議行動を行った善心匯

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2017年)7月21日から同24日にかけて、北京では善心匯による抗議活動が行われた。善心匯とは、元来、貧者の救済を目的とした組織であり、「貧困を救済し、均富(等しく豊かに)共生する」がスローガンである。
 同月21日、善心匯主催者である張天明が逮捕された。張はマルチ商法(連鎖販売取引。ピラミッド型のヒエラルキーを形成)容疑で、当局に捕まったのである。
 同日、善心匯会員らが、北京の中央紀律検査委員会ビル等に集結し、張天明と幹部らの釈放を求めた。翌22日、会員らは中央紀律検査委員会ビルで張天明らの釈放を請願した。翌23日、会員らは天安門広場でデモを行っている。
 更に、翌24日、今度は善心匯の会員約6万人(約10万人説もある)が、最高人民検察院などの前で、大規模な抗議活動を行った。会員らは「善心匯が迫害を受けている」と書かれた横断幕を持っていた。
 当日、はじめ会員らは北京市体育局南大紅門で抗議活動を行っていたが、その後、一部がその大紅門の南方約6.4キロの天安門広場へ移動した。そして100人以上が天安門広場で鎮座したのである。
 この善心匯会員の抗議活動は、1999年4月25日、法輪功(李洪志主催)の約1万人以上の抗議行動(鎮座)以来の大規模デモとなっている。法輪功同様、北京政府は、直ちに善心匯のデモ鎮圧へと動いた。中国当局は会員らを「社会管理秩序妨害罪」容疑で、67人刑事拘留している。
 善心匯会員は、中国全土31省市に亘って約500万人から600万人いるという。そして数百億元もの資金を集めている。善心匯は、会員から「寄付」という名目でカネを集め、数十日という短期間に10〜30%という高い利子をつけると謳っていた。
 善心匯は、貧困区、小康区、富人区、徳善区、大徳区、永生区の6等級に分けた。それぞれの区では、出資金や配当が違ってくる。
 例えば、貧困区で3000元(約4万5000円)を他の人へ寄付すると、約1ヵ月で900元(1万3500円)の利息が付く。小康区で3万元(約45万円)寄付すれば、1ヵ月で6000元(約9万円)の利息が付く。無論、銀行へカネを預けても、これほどの高利子が付くはずもない。
 会員は一つ300元の「善種子」を購入すると、はじめて利益獲得の資格を得られる。また、会員は1〜3枚の「善心幣」(1枚100元)を購入する。他方、ある会員が新会員(自らよりも下層)を入会させると、2〜6%の紹介料が手に入る。
 善心匯は、特に何か事業を直接行う、或いは株等で資金運用をしている訳ではない。だから、どのように会員へ高い配当を支払っているのか不明である。仮に善心匯が発展するためには、会員を増やし続けるしか方法はないだろう。
 従って、その実態はネズミ講に近いのではないか。結局、北京政府は善心匯をネズミ講と断定し、張天明らを逮捕した。
 張天明は、広東省深圳市善心匯文化伝播有限公司の法定代表人となっている。2013年5月24日、同公司は深圳市龍華新区で登記し創設した。登記時の資本金は、100万元(約1500万元)で、張天明が51万元(約765万円)出資している。2016年末には、同公司は資本金5億元(約75億円)へ増資した。
 善心匯は、全国各地方で“経営モデル”を競わせた。湖南省長沙では今年6月、湖南省公安が善心匯幹部に対し強制調査を行った。
 そこで、3000人以上の会員が統一された服を着て、湖南省政府前で3日間、抗議活動を行っている。その際、政府から妥協を引き出すため、お年寄りや身体障害者をデモの最前列に並べた。
 善心匯の幹部は、会員に対し「カネは損していない」、「自ら寄付した」と公安に言うように指導していたのである。
 実は近年、中国では大規模な投資詐欺が起きている。
 2015年12月、中国当局はe租宝(ネット上で資金を調達。金易融<北京>インターネット科技有限公司が責任運営)に対し強制捜査に入った。総取引額745.68億元(約1兆1185億円)、総収入額703.97億元(約1兆560億円)、業界第4位だった。騙されて投資した人数は90.95万人にものぼる。郭某影ら9人が逮捕された。
 一方、「泛亜有色金属交易所」(2011年4月、雲南地方政府が批准)は、年利13%を謳っていた。融資額430億元(約6450億円)を超過し,累計取引総額は3263億元(約4兆8945億円)、会員は22万人いた。2015年12月、単九良交易所主席が失踪した。だが、翌16年2月、単九良ら主要メンバー16人が逮捕されている。