澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -239-
資金を海外へ逃避させる中国富豪500家族

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 周知のように、最近、中国は外貨準備高を減少させている。その原因の一つとして、輸出の伸び悩みがあるだろう。“最悪期”を抜け出した感はあるが、依然、中国の景気は低迷している。
 中国人民銀行(中央銀行)は、為替介入(元買いドル売り)を行って人民元を買い支えている。そのため、中国の外貨準備高が、3年も経たずして約4兆米ドル(約440兆円)近くから約3兆米ドル(約330兆円)と、1兆米ドル(約110兆円)も減少した。
 一方、中国の富裕層は、人民元安を嫌い、他の通貨資産に換えている。中国経済の先行きが不安だからである。
 そこで、北京政府は、外資はもとより、自国民にさえ外貨持ち出しを厳格に規制した。だが、中国富豪500家族(中国全体の富40%を占めている)が、直近3年間で1兆米ドル(約110兆円)を海外へ流出させたという。
 香港誌『動向』によれば、(1)王健林(万達集団)は、公になっている資産を殆ど処分している。(2)潘石屹(SOHO中国)は、236億元(約3540億円)分の資産を売却した。(3)賈躍亭(楽視)は、3度に亘り持株を減らし、117億元(約1755億円)を現金化した。(4)海南航空最大の株主(王岐山の私生児と言われる貫君か?)が、2000億米ドル(約22兆円)の慈善基金会を設立したという。
 さて、今年(2017年)、中国富豪トップ500の資産合計は、7兆8899.8億元(約118兆3497億円)である。富豪1人平均157.8億元(約2367億円)で、昨年の160.4億元(約2400億円)と比べ、1.6%降下した。3年連続のマイナスである。
 10年前、2007年中国富豪トップ10(女性2人)の中では、不動産億万長者が7人も占めた。2007年と言えば、「リーマン・ショック」が起こる前年である。当時、中国経済は好調だった。
 第1位から4位までは、不動産王が占めていた。第1位は、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールズ)の楊恵妍(女性。当時25歳)だった。彼女の総資産は455.1億元(約6826.5億円)である(2005年、楊恵妍は父親の楊国強会長から同社所有株を譲渡され、その株が急騰したため)。
 その10年後、2017年中国富豪トップ10(全員男性)では、インターネット関連企業の億万長者が5人も入っている。
 第2位の馬雲(アリババ)、第4位の馬化騰(騰訊)、第5位の丁磊(網易)、第9位の雷軍(小米)、第10位の李彦宏(百度)である。因みに、第1は、万達集団の王健林・王思聡父子だった。王父子の総資産は1794.3億元(約2兆6914.5億円)である。
 ところで、中国富豪らは、いつ自分の資産を中国共産党に取り上げられるか分からない。彼らはそれが1番不安だろう。だから、資産を海外へ移しているのではないだろうか。
 今年(2017年)1月、「明天系」の蕭建華(カナダ国籍等)は居住していたフォーシーズンズ・ホテル香港から、中国公安に拉致・拘束された。未だ、蕭建華の消息は不明である。また、鄧小平の孫娘の夫、呉小暉は安邦保険集団の会長兼CEOだった。だが、今年6月、中国公安に拘束されている。
 実は、蕭建華と呉小暉の2人の逮捕理由がよく分からない。当然、他の中国大企業トップは、次は自分の番かもしれないと疑心暗鬼に陥っても不思議ではないだろう。
 特に、李彦宏(ロビン・リー)は、蕭建華の妻、周虹文と近しい。同じ北京大学情報管理系の同級生だったからである。そのためか、今年2月、一時、李彦宏が当局に出国禁止されたという噂が流れている。
 今年7月、香港紙『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』(『南華早報』)でコラム二ストのシャーリー・ヤム(Shirley Yam)が習近平主席の側近、栗戦書のスキャンダルをすっぱ抜いた。正確には、栗戦書の娘、栗潜心とその夫と見られる蔡華波のスキャンダル―「シンガポール・ペニンシュラホテルへの投資者は、習近平の最側近と、どのような関係があるのか」―を暴露した。
 しかし、同紙は、その記事が社の方針に合わないとして、すぐに削除したのである。同紙は馬雲が所有しているが、馬は「上海閥」に近い政商だと見られている。そのため、習近平主席の逆鱗に触れたら最後、馬雲も当局に逮捕される可能性があったと思われる。
 『南華早報』が早急に削除・謝罪したのは、以上の理由からだったに違いない。
 結局、記事を書いたシャーリー・ヤムは、今年8月下旬、11年間働いた『南華早報』を退職している。