澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -240-
奇々怪々な中朝関係

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)8月29日早朝、平壌の順安付近から中距離弾道ミサイル(「火星12型」)を発射した。日本上空を通過し、襟裳岬の東方約1180キロメートルあたりの海域で3つに分離して落下した。
 それから、まだ1週間も経たず、翌9月3日12時半頃、北朝鮮は咸鏡北道吉州郡豊渓里付近で核実験(水爆実験?)を行っている。この実験時、マグニチュード6.1が観測されたという(同5.6、同6.3等の説もある)。
 前回(昨年9月)の核実験(TNT<トリニトロトルエン>火薬換算10キロトン程度)よりも、強力(TNT火薬換算約70キロトン)だったと見られる。
 当日3日、新興5ヵ国(BRICS)首脳会議が中国福建省厦門で3日間の予定で開催された。中国・ロシア・インド・ブラジル・南アフリカの首脳が参加している。
 今回、北朝鮮による6度目の核実験は、そのBRICS会議開催日に行われた。そのため、習近平主席の面子丸潰れである。
 さて、相変わらず、多くの日本のマスメディアや学者・研究者は、「中国は云々」と書いたり、発言したりしている。
 けれども、我々が予てより主張しているように、決して中国は一枚岩ではない。
 中国には、少なくとも2つの勢力が存在する。かたや北朝鮮の核・ミサイル開発を非難し、北の「暴走」をストップさせたいと思っている「嫌朝派」、かたや北朝鮮を全面的に支援している「親朝派」である。中国国内で、両者がせめぎ合っている。
 具体的に、前者は「太子党」の習近平政権である。北京政府は、北朝鮮に対し、米国等と共に経済制裁を含めたプレッシャーをかけ、核・ミサイル開発をやめさせたいだろう。米トランプを怒らせたら最後、米国の非難の矛先が北朝鮮ばかりでなく、中国政府にも向かう恐れがある。
 他方、後者は「上海閥」だと思われる。「上海閥」は、食料・石油等のエネルギーを北へ輸出している。同時に、後者は北に核・ミサイル技術を与えている。
 但し、両者ともに、朝鮮半島の現状維持、或いは北朝鮮による南北朝鮮統一を望んでいることは間違いないだろう。韓国主導の朝鮮半島は中国にとって悪夢である。何故なら、中国は北朝鮮という緩衝国(バッファー・ゾーン)を喪失すれば、(米国がバックについている)韓国が、鴨緑江まで伸張するからである。
 昨年から今年にかけて、北朝鮮はしばしば中国の重要会議やイベントが開催された当日、或いは翌日に、核・ミサイル実験を行っている。
 ここでは、2例だけ挙げておこう。
 昨年(2016年)9月5日、「G20杭州サミット」開催中の2日目、北朝鮮は黄海北道の黄州付近から日本海に向けて中距離弾道ミサイル(「ノドン」)3発を発射した。
 また、今年(2017年)5月14日、北京での「一帯一路」国際サミット初日、また北のミサイルが発射されたのである。当日5時28分頃、北朝鮮西岸の亀城付近から、1発の弾道ミサイルを東北東方向に発射した。朝鮮半島東約400キロメートルの日本海上に落下したものと推定されている。
 現在の習近平政権は、金正恩委員長を快く思っていないに違いない。2011年12月、金正日死去後、金正恩委員長はすぐに北のトップになった。けれども、依然、金委員長はトップに就任以来、1度も北京詣でをしていない。金委員長も、習近平主席を好ましい人物と思っていないのだろう。
 仮に、今の北京政府が「上海閥」系ならば、金正恩委員長は、これほどまでに露骨な北京政府の面子潰しを行っただろうか。無論、ノーである。
 以上のように、「中国は云々」という言い方は、あまりにも議論が大雑把過ぎる。もう少し精緻な議論が望まれよう。
 ところで、金正恩委員長は“自らの意志”で核・ミサイル実験を繰り返しているのだろうか。それとも(習近平政権下、「反腐敗運動」のターゲットになっている)「上海閥」が金委員長を利用して、習政権を揺さぶるために、核・ミサイル実験を行わせているのだろうか。それとも、この両方なのだろうか。
 何れにせよ、習近平政権は、簡単には北朝鮮を経済制裁できないし、北の「暴走」をコントロールできない状況にあるだろう。