澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -244-
EPICによる中国大気汚染研究

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)9月11日、シカゴ大学エネルギー政策研究所(the Energy Policy Institute at the University of Chicago=EPIC)が中国の大気汚染に関するショッキングなレポートを公表した。
 同研究所の推計では、全世界で大気汚染に晒されている人達は45億人いるという。この数字は世界保健機関(WHO)の推計のおよそ2倍である。
 同レポートは、中国の北方に住む人々は南方に住む人々よりも、平均寿命が3.1年短いと指摘した。北方は南方に比べ、大気汚染濃度が46%も高いためである。また、PM10は、肺や心臓の疾患で人々の寿命を0.6年縮めているとも指摘している。
 米国・ヨーロッパ・日本でも、かつて大気汚染問題が深刻だった時期があった。従って、この問題を克服するには、強力な政策と実効性が求められよう。
 中国では、冬期に入ると、淮河(揚子江・黄河に次ぐ中国第三の大河で、長江と黄河に挟まれるように流れる)の北方に住む人々は、その南方に住む人々とは異なり、無灰炭(ハイパーコール)以外で暖を取る事が難しい。中国では、無灰炭が全国に普及していないからである。
 また、北京政府は淮河への政策転換も行わず、大気汚染が進んでいない他の省市への人々の移住も厳しく制限している。
 本来、北京がちゃんと大気汚染の実態を明らかにすれば、汚染による健康被害が減るかも知れない。
 では、中国政府は大気汚染に、どのように対処したら良いのだろうか。レポートでは、次の4つを提案している。
 第1に、大気汚染の原因を特定化する可能性を持つ研究設計に依拠する。
 第2に、比較的短い期間(毎週か毎年)で、汚染時間の影響を測る。
 第3に、(中国やインドを含め)数十億もの人々が直面している汚染濃度よりも低い汚染濃度を設定する(彼らの汚染への適用性に関する疑問は未解決のままにしておく)。
 第4に、死亡率に対する影響を測る(但し、犠牲者の予測は未解決のままにしておく)。
 この研究の特殊性は、解決困難な問題を解決しようとしている点にある。別の時期の2つのデータを使用しているが、大気汚染と寿命の関係を解き明かそうとしている。
 最新のデータは、以前のデータと比べて、8倍もの人口をカバーした。また、そのデータは、環境規制対象である、より小さい汚染粒子(PM10)の直接的証拠を提供している。
 この研究は、微粒子による大気汚染と平均寿命との因果関係を明らかにした。
 以前のデータが発表されて以来、中国共産党は大気汚染問題解決に向かって努力している。例えば、(無灰炭ではない)石炭ボイラーからガスボイラー・電気設備へ転換している。また、排気ガスのひどい工場を閉鎖した。そのため、北京のような大都市では、大気汚染が改善されている。
 大気汚染に対する中国の挑戦は、結局、中国人に健康をもたらすだろう。仮に、中国全土で大気汚染がレベル1(PM10の濃度が40マイクログラム毎立法メートル)の水準まで減少すれば、トータルで37億年分の人々の寿命が救われる。
 以上が、EPICによる中国大気汚染に関するレポートの概要である。
 問題は、中国の大気汚染が、冬季に暖を取るための石炭使用だけが原因ではない。他にも、石炭を使用する工場からの排気ガスや車の排ガス等が大気汚染の主因となっている。
 国有企業の場合、民間企業と違って、工場からの排気ガス規制は甘くなる傾向があるのではないか。国有企業はしばしば既得権益を持つ党・政府幹部や人民解放軍と強く結び付いているからである。そのため、実効性については疑問符が付く。
 他方ヨーロッパでは、今後、排ガスの出るガソリン車は徐々に規制され、将来、電気自動車(EV)が街を走るようになるだろう。最近、英仏は、2040年までにEVへの完全移行を宣言した。ガソリン車やディーゼル車は販売禁止となる。
 中国の場合、発電の約75%は石炭に依存(2014年現在)している。だから、たとえ中国に電気自動車が導入されても、発電の段階で、多くの発電所(無灰炭ではなく、普通の石炭を使用)からの排気ガスによる大気汚染が心配される。