澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -247-
魏京生による中朝関係の見方

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 かつての中国民主化運動家の闘士、魏京生は、現在、米国に亡命している。
 魏は、1976年の「第1次天安門事件」を契機に起きた「北京の春」(1978年秋、北京市西単の「民主の壁」で中国の民主化を訴える)で活躍した。
 だが、魏京生は中国当局に、2度逮捕された。魏は1979年に懲役15年(懲役14年半で仮釈放)、1995年に、懲役14年の実刑判決を受けている。97年、病気を理由に仮釈放され、訪米した。
 今年(2017年)9月22日、その魏京生が、自由アジア放送(RFA)で中朝関係について興味深い事を述べているので、その骨子を紹介する。
 まず、魏京生は、次のように指摘する。
 メディアでは、米国の対北朝鮮政策が失敗したので、北が核兵器開発を継続し、発展を速めているという論調が流布している。これは、状況証拠だけを見て、殆ど考慮していないという典型的な誤った結論である(この点については後述する)。
 北朝鮮の金日成、正日の父子は核武装をして、現体制の金王朝を死守しようとした。そして金父子は、核兵器を朝鮮半島統一のための道具にしたのである。これは正常な思考であり、またあらゆる独裁政権の正常な思考でもある。だからと言って、北が勝手に核兵器を作れるわけでもない。
 以前、中国は、北朝鮮を兄弟国として、友誼を唱えていた。ところが、江沢民が共産党トップになって以来、北朝鮮を米中との緩衝地帯とすると同時に、北を東アジアのトラブルメーカーに育て上げたのである。これが中国共産党の新しい行動理論となった。
 その後、北朝鮮は中国の指導の下に、核兵器やミサイル技術の研究開発を始めた。この時期、北のミサイルは基本的に中国ミサイルの複製品で、ミサイル運搬車さえも全て中国の型番だった。
 金正恩時代になり、ここ1、2年、正恩は韓国に圧力をかけ、一歩ずつ朝鮮半島統一の機会を窺っている。
 これは、米国や日本等にとっては容認できない。そうすると、必然的に米国の黙認下、日本と韓国は自国での核兵器開発を迅速に行い、北との核相互抑止を図るだろう。
 日韓両国が核開発をするというならば、台湾にはもっと核開発をする理由がある。(もし台湾が核開発をすれば、)中国共産党が台湾を「解放」するという高邁な理想は、さらにリスクが高まるだろう。
 すると、共産党が数世代にわたり言っていた“ハッタリ”が、中国民衆の前で完全に破綻する。
 目下、核兵器保有国に囲まれた、核に取り憑かれた人間(金正恩)によって、核戦争の勃発の可能性が高まっている。
 その他の民主国家は、相対的に安定している。しかし、中国の専制政治は、段々と不安定化している。そのクレージーな人間が、体制の持続不可能となった時、周囲の恐喝目標を探せば、中国こそが彼の最高のターゲットとなるだろう。
 たとえ、日韓台が核武装しなくても、米国の核の傘の下、金正恩にとって、なかなか日韓台への攻撃は難しい。
 ロシアは金正恩とは殆ど関わり合わない。中国こそが、北朝鮮の核を使用する唯一の対象となる。
 核を弄ぶ人間は、少しでも多くのカネを騙し取る事が、最低限の目標である。その際、どんな手を繰り出すか我々には想像できないが、彼には上手くできるとも思えない。金正恩は恩知らずだが、やくざでさえも生きなければならないだろう。
 さて、冒頭に掲げた魏京生の指摘には、多少違和感を覚える。
 周知の如く、1993年から94年にかけて、米朝に軍事的緊張が高まった。その頃、北朝鮮は、核開発の初期段階だった。
 冷戦終結当時、中国は大した軍事力を保持してなかった。ソ連邦崩壊後、ロシアもまだまだ混乱状態だった。
 従って、後知恵かも知れないが、米国が北朝鮮の核施設を攻撃する最大のチャンスだったのである(日本政府や韓国政府が米国の北攻撃に猛反対したとも言われる)。
 結局、クリントン政権は北朝鮮に騙され、核ミサイル開発の時間的猶予を与えてしまった。
 既に北朝鮮は核兵器を保有し、かつ短距離ミサイルのみならず、中長距離ミサイルも実用化されつつある。
 無論、北朝鮮という猫を虎にまで成長させた最大の責任は中国にあるけれども、米国の責任も決して小さくないのではないか。