澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -249-
頼清徳首相の「親中愛台」論と「台湾独立」

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 昨2016年5月、蔡英文台湾総統は就任以来、支持率が低迷していた。そこで蔡総統は、林全行政院長(首相)に代わり、民進党の切札、台南市長だった頼清徳を首相に指名した。
 今年(2017年)6月、頼清徳台南市長は、市議会で自らを「親中愛台」だと答弁した。台湾では「親中」(中国と親しくする)と言う言葉は、しばしば「売台」(台湾を中国に売り渡す)と同じ意味とされてきた。
 頼市長の「親中愛台」論は、台湾で物議を醸した。その市長が、先月9月8日、首相に就任したのである。
 頼清徳新首相は、就任後にも「親中愛台」論を展開している。そして、頼首相は、台湾は既に主権国家なので、「台湾独立」を宣言する必要はないと明言した。
 当然、中国共産党は「台湾独立」は許せないとして反発し、頼首相を非難している。しかし、共産党が実質的に「独立」している台湾に対し、「独立」を許さないと言っても虚しいのではないか。
 現在もなお、中国共産党によって支配されているチベットや内モンゴル、新疆ウイグルと台湾は決定的に違う。既に台湾は、(不完全ながらも)1国家である事は疑う余地もない。
 ここで、もう一度「台湾独立」というタームを再考してみたい。
 それを検討する前に、そもそも、どんな条件が整えば、国家となるのだろうか。普通その要件は4つある。
 第1に、ある一定の面積の領土。今のところ、海洋上や海中・海底及び空中は領土とは見做されない。
 第2に、その領土に住む一定数の人民。
 第3に、正当な政府。その政府は、一般に民主的手続き(主に選挙)で構成される。
 第4に、主権(外交権)。
 国家となるためには、これら全てを満たす事が求められる。台湾に関しては、第1から第3は満たしているが、第4の主権(外交権)に問題がある(2017年9月末現在、台湾と国交があるのは20ヵ国)。従って、台湾が完全な国家とは言い難い(もっとも、中国はまともな選挙を1度も行っていないので、第3に疑問符が付く)。
 さて、今世紀に入って独立した国は2つある。1つは、2002年、インドネシアから東ティモール民主共和国が独立した(国際法ではポルトガルから独立)。もう1つは、2011年、スーダンから南スーダン共和国が分離・独立した。
 他方、アフリカには台湾のように、外国から多くの国家承認を受けていない(=完全な独立国とは認められていない)国もある。
 1つは、西サハラに位置するサハラ・アラブ民主共和国(1976年、スペインから独立)である。もう1つは、東アフリカのソマリアの一部、ソマリランド共和国(1960年、イギリスから独立。1991年、ソマリアから再独立)である。
 台湾を考える場合に厄介なのは、同国がサハラ・アラブ民主共和国やソマリランド共和国とは異なる点を持つからである。
 まず、台湾は一体どこから「独立」するのかという点である。実際、中国共産党は、台湾を1日たりとも統治していない。従って、論理的に台湾が中華人民共和国から「独立」する事はあり得ない。
 次に、台湾は1971年まで中華民国として、世界大多数の国々から国家承認を受けていた(大陸・台湾を含めた「1つの中国」という“虚構”の政府承認とも言える)。そして、台湾は国連にも5大国の1つとして加盟していたのである(同年、国連から追放)。
 実は「台湾独立」には2つ形態が考えられる(いずれも大国の国家承認が必須である)。
 1つは「台独」で、新国家の「台湾共和国」を樹立する。
 その場合、現在の中華民国から(1)国名変更(2)今の中華民国憲法の全面改正(3)国連新加盟が求められる。
 もう1つは「華独」と呼ばれ、現在の中華民国のまま完全「独立」を目指す(但し「独立宣言」はしない)。
 (1)国名変更せず(2)中華民国憲法の更なる改正を行う(過去7回の憲法改正を経験)(3)中華民国として国連へ復帰する(未だ国連を脱退した国が復帰した例はない)。
 既述の如く、頼首相は、「独立宣言」はしないと言明している。従って、「華独」を目指している節がある。
 結局、台湾の「独立宣言」とは、法的に「1つの中国」からの「独立」を目指すのだろうか。
 仮に、民進党政権が92年コンセンサスである「1中各表」(「1つの中国」、大陸側は中華人民共和国を「中国」として、台湾側は中華民国を「中国」とする)を認めるならば、台湾は中華民国から「独立」する事になる。
 この場合、かつての「台湾独立派」の主張である「中華民国体制からの独立」と同一になるのかも知れない。