澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -252-
中国共産党の5つの危機

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2017年)10月18日から、中国共産党第19回全国代表会議(「19大」)が開催される。その人事に関しては世界の耳目を集めている。しかし、共産党の内実が厳しい状況下にあるのは、あまり知られていない。以下は「阿波羅(アポロ)」からの引用(概略)である。
 香港誌『争鳴動向』の10月合併号は、次のような記事を掲載した。
 今年9月初め、中国共産党中央、中央軍事委員会、中央紀律検査委員会は秘密工作総括報告を作成した。それは、各地方の軍隊や党委員会指導メンバーが学習するために発行されている。
 報道によると、全文で3万2500字以上あるという。第1部では、多くのページを割いて、中国共産党の党・政府・軍の機関や各部門組織、或いは指導的な官僚チームが崩壊の危機に瀕している現状を示唆した。
 これらの危機的状況は、目下、5つの方面に現れている。
 (1)共産党の政治思想、組織、チームは党の潜在的危険を暴いているが、既に危機は臨界点に達している。
 (2)共産党の党・政府機関の各部門では、権限と責務、ガバナンス等が、かなりの部分で失われ、リーダーの職責が放棄され、一部は長期的麻痺状態にある。
 (3)共産党の党・政府・軍の機関、部門、工作単位では、土砂崩れ的に、大規模に、地区的に、部門的に腐敗堕落が見られる。
 (4)共産党の党政府機関・各部門の官僚は各界と緊張関係にあり、甚だしい場合には対立する局面もある。
 (5)中国社会の貧富は両極化し、社会矛盾の激化、対立が増大し、それが直接的に政局の安定と発展に影響を及ぼし、動揺させている。
 報告での統計によれば、31の省級党委員会のうち、23が不合格である。また、29の党中央部級党委員会中、18が不合格となっている。更に66の国務院省級党委員会の中では、42が不合格である。
 それらトップの委員会よりも下位の党委員会は、ショッキングな不合格数となっている。これは中国共産党組織が崩壊の危機に瀕しているという証左である。
 現在、中国共産党は危機に陥っている。中南海の高層部が近年来、幾度となく「亡党の危機」を言及してきた。
 胡錦濤は、中国共産党第18回全国代表大会(「18大」)の開幕時、「もし我々が腐敗問題を上手に解決できなければ、それが致命的となるだろう。最悪の場合、亡党・亡国へ至る」と述べている。
 香港誌『争鳴』が、昨16年11月号に発表した文章には、王岐山が中央紀律検査委員会上、中国共産党体制が既に崩壊の臨界点に達している事実を初めて公に認めた。
 その報道によれば、共産党第18期5中全会前夜、中央紀律検査委員会第52回常務委員会で、王岐山は自分が同委員会主任に就任して以来、党内の元幹部が王に対し圧力をかけたり、「配慮」してくれたりした、という内容を公表したのである。
 王岐山は、その会議上、党内の腐敗堕落状況、その規模と深度が既に変質し、政権崩壊の臨界点に到達していると明言した。王は、「あなたが認めるか認めないか、受け入れるか受け入れないかではなく、これは厳粛な事実である」と語っている。
 また、王岐山は、「これは当然、体制と機構制度上の大問題であると同時に、党内幹部の政治生活上の大問題である」と直言している。
 さて、周知の如く、王岐山に関する腐敗スキャンダル(私生児問題、王一族の「海航」私有化問題等)は、米国へ亡命した郭文貴によって余すところなく暴かれている。郭証言の全部が正しいかどうかは不明だが、その一部は信用に値するだろう。
 以前から我々が主張しているように、中央紀律検査委員会のトップである王岐山自ら、腐敗しているのである(習近平主席も同様)。
 王岐山のように、正義の仮面を被った人間が、法律ではなく共産党の党則(モラル)で、恣意的に政敵である他の高級幹部を調査し、失脚させている。
 今の共産党の高級幹部らは、叩けばホコリが出るに決まっている。おそらく腐敗していない高級幹部は誰一人いないのではないか。共産党は、以上のような矛盾を孕んだ「反腐敗運動」を今後も継続するのだろうか。
 「19大」での王岐山の去就が気になるが、政治局常務委員として残留するか、或いは党副主席、中央国家安全委員会副主席、国務院総理(李克強の代わり)、新設の国家監察委員会主任として要職を得るのか、注目される。