澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -254-
某大新聞の中国ミスリード記事

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)10月18日、中国共産党第19回全国代表大会(「19大」)が開催された。当日、習近平主席が3時間半もの政治報告を行っている。
 今回、もし政治局常務委員(共産党最高幹部)が7人体制の場合、以下のメンバーとなる事が予想される(現時点の肩書を記す)。
 習近平(国家主席)・李克強(首相)・栗戦書(中央弁公庁主任)・汪洋(副首相)・韓正(上海市委員会書記)・陳敏爾(重慶市委員会書記)・胡春華(広東省委員会書記)あたりではないか。
 但し、人事は水物である。意外なメンバーがダークホースとして浮上するかも知れない。例えば、王滬寧(中共中央政策研究室主任)・趙楽際(中央委員会組織部部長)らも常務委員へ昇進の可能性は捨て切れないだろう(因みに、王岐山<中央紀律検査委員会書記>の残留もゼロとは言い切れない)。
 さて、党大会開幕当日、某新聞は、ネット上に「常務委員 習派が過半数 共産党 1強体制鮮明に」という記事を掲げた。この中で、2つの読者をミスリードする内容が含まれているので言及したい(順番は前後する)。
 第1に、記事は「政治局常務委員会で、総書記は他のメンバーと同じ1票しか持たないため、議案の可決には、定員7人のうち自らを含め4人以上の賛成が必要になる」と指摘している。これはかつての江沢民時代(「14大」・「15大」)・胡錦濤時代(「16大」・「17大」)ではそうだったかも知れない。しかし、現在では状況が全く異なる。
 2012年11月から今日までの「18大」期間中では、習近平主席(「太子党」)・李克強首相(「共青団」)・王岐山(「太子党」)以外の他のメンバー、張徳江・兪正声・劉雲山・張高麗の4人は、ほぼ江沢民系の「上海閥」に属する。従って、仮にこの党内民主主義が真に機能していれば、習近平独裁体制へ向かう事はあり得なかった。「上海閥」4人と「共青団」の李克強がしっかりスクラムを組めば、習主席の“暴走”を十分抑えられたからである。
 ところが、実際、現体制は、習主席の“暴走”に“歯止め”がかからず、毛沢東体制並みの独裁制へ突き進んでいる。従って、「総書記は他のメンバーと同じ1票しか持たない」はずがない。習総書記が他のメンバーを遥かに超越したパワーを持つと考えられよう。
 周知の如く、習・王政権は、「反腐敗運動」の名を借りて、「上海閥」(及び「共青団」)を徹底して叩いてきた。同政権は党・政府・軍からの「上海閥」一掃を目論んでいる。
 おそらく、陰で王岐山が腐敗(収賄や女性問題)をネタにして他の政治局員を脅迫していたのではないか。もしそうでなければ、習近平主席の主張を簡単に「上海閥」が受け入れるはずはないだろう。
 第2に、記事には「党関係者によると、常務委員には『ポスト習氏』と注目される陳敏爾(ちん・びんじ)・重慶市党委書記(57)が昇格。習氏最側近の栗戦書(りつ・せんしょ)・党中央弁公庁主任(67)と汪洋(おう・よう)副首相(62)が確実視されており、習氏を含めて『習派』が7人中4人以上を占めることになった」と決めつけている。これにも疑問符が付く。
 習近平主席(「左派」=「保守派」)の側近、栗戦書と陳敏爾(「之江新軍」=「習近平派」)はまさに「習近平派」であることが明らである。だが、汪洋は胡錦濤系「共青団」(「右派」=「開明派」)の1人である。
 汪洋の広東省委員会書記時代(2007年12月1日~2012年12月18日)、同省陸豊市東海街道烏坎村では、村民委員会が村の土地を村民会議に諮らず、役員だけで勝手に決めた。この件を契機に、同村では2011年秋に大規模な抗議行動が起きている。
 その後、地方政府の対応が杜撰だったため、村民の抗議はエスカレートしていった。そこで、翌12年2月には村民代表の選挙、翌3月には新しい村民委員会を選任するための村民全員による直接選挙が実施された。このような汪洋の対応を見れば、汪が必ずしも「左派」の「習近平派」に属するとは限らないだろう。
 一方、別の見方も出来るのではないか。仮に、冒頭のように7名の常務委員が決定した暁には、李克強(父親は安徽省鳳陽県長)・栗戦書(祖父<?>が山東省委員会書記処書記)・汪洋(父親は安徽省宿県地区食品公司党委員会書記)・韓正(不詳)・胡春華(農民の家庭出身)の5人が全て「共青団」出身である。場合によっては、彼ら5人が徒党を組めば、習近平主席には脅威となるかも知れない。