澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -255-
習近平主席の政治報告

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 周知のように、今年(2017年)10月24日、中国共産党第19回全国代表大会(「19大」)が閉幕する。開幕した18日当日、習近平総書記(兼主席)が政治報告を行った。タイトルは「小康社会の全面的完成の決戦に勝利し、新時代の中国の特色ある社会主義の偉大な勝利を勝ち取ろう」である。
 報告の文字数としては、前回の「18大」の際、胡錦濤主席(当時)は、約4000字だった。けれども、今度の習報告は3万2000字以上だったので、実に約8倍の長さだった。
 従って、習近平主席の政治報告が終わるまで、3時間20分以上の時間を要した。これをじっと聴いていた老幹部ら(江沢民元主席、胡錦濤前主席等)は、どれほど苦痛だっただろうか。一部の老幹部らは、居眠りをしている。
 さて、習報告の全文は美辞麗句に彩られ、自画自賛のオンパレードだった。率直に言って、習報告は中身が空虚である。社会主義やマルクス主義という決まり文句が散りばめられ、「“新時代”の中国の特色ある社会主義」というフレーズが繰り返し使用されている。
 報告は多岐に亘るので、ここでは絞って言及しよう。
 第1に、習近平主席は、「中華民族の偉大な復興」を目指すとしている。何故、共産党がその任務を達成する必要があるのか、不思議である。歴史的に中国が東アジアの大国だったからか。それは本当に「中国の夢」なのだろうか。
 第2に、習近平主席は、未だ中国は発展途上国だと位置付けている。そして、発展段階を2020年から2035年を第1段階、2035年から2050年を第2段階とする。その30年間で「共同富裕」を目指すという。だが、中国の最貧困層は、数千万台へ減っているが、その上に存在する貧困層は7~8億人もいる。
 第3に、習近平主席は「美しい中国」を創造するため環境問題に取り組むという。だが、今後、本当に「美しい中国」を取り戻せるのか、甚だ疑問である。中国の大気汚染・土壌汚染・河川汚染は深刻な社会問題となっている。これは簡単には解決出来ない。汚染対策には、莫大な費用と長い時間がかかるだろう。
 第4に、習報告は法治を強調するのだが、中国共産党は法による支配を行っていない。
 例えば、最高法規である中華人民共和国憲法には「国家は人権を尊重し保障する」(第33条)と書かれている。また、憲法では「言論、出版、集会、結社、デモの自由」(第35条)、「宗教信仰の自由」(第36条)が認められている。だが実際には、基本的人権は踏みにじられ、憲法で保障されているはずの各自由は厳しく制限されている。
 第5に、中国共産党は声高に民主を唱える。しかし、民主集中制という名の独裁制で、民主化運動を徹底して弾圧する。中国では民主主義の基本である選挙ですら、基層レベル(村や町)でしか行っていない。
 第6に、習報告では中国共産党の言動不一致が甚だしい。言っている事とやっている事が180度違う場合さえある。同党は、他国と“互恵・ウィンウィン”関係を築き、世界平和の守護者になると吹聴する。だが現実は、中国は周辺国と摩擦を起こしている。中国による東シナ海や南シナ海での膨張は、我が国をはじめとして周辺国(特にベトナムやフィリピン等)に脅威を与えている。
 第7に、中国共産党は、他国の民主主義や自由主義という普遍的な価値観受け入れず、自国の特殊な価値観を他国に押し付けるつもりである。他方、同党は、国際法ですら遵守する気がない。
 第8に、中国共産党は、香港(と澳門)における「1国両制」(1国家、2制度」)を徐々に侵食し破壊している。しかし、同党は同システムを守ると言って憚らない。
 第9に、習近平主席は「台湾独立」を許さないと言う。だが中国共産党は1日たりとも台湾を支配していない。従って、台湾は(国際法はともかく)事実上、中華人民共和国から「独立」する事はあり得ない。
 国家統一こそが中国人の悲願だと言うが、大部分の台湾人は「中台統一」を忌み嫌っている。
 また、中国共産党の一部の幹部と学者は「両岸は家族」だと言いながら、もし米国が北朝鮮を攻撃したら、中国は台湾を攻撃すると脅している。
 最後に、今回「習近平思想」が党規約に書き込まれる予定である。そもそも毛沢東思想に匹敵するような「習近平思想」なるものが存在するのだろうか。大きな疑問符が付く。