澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -257-
“新時代”の中国経済とその危機

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)10月18日、中国共産党第19回全国代表大会(「19大」)初日、習近平総書記(兼主席)は3時間20分以上かけて「政治報告」(3万2000字以上)を行った。周知の如く、その中では、思想・イデオロギーが強調されている。一方、習報告では、“サプライサイド経済”にも触れられていたが、あまり具体的な中身は語られていない。
 一部の評論家は、習近平主席の経済改革が曖昧模糊として、明確な一貫性と連続性がないと批判する。
 習近平主席が共産党トップに就任して間もない頃、中国経済に関して、マーケットにもっと重要な役割を持たせようとしていた。ところが、最近、米『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』紙は、習主席が「マーケットにだけ頼り過ぎるのは大変危険である。“国家資本主義”が、もっと良いモデルだ」と明言したと報じている。
 さて、世界の中国経済専門家は習近平政権の経済政策をどのように分析しているだろうか(ここでは、そのごく一部を取り上げる)。
 まず第1に、米財務省の駐中国代表を務めたマイケル・ハーソン(Michael Hirson)は、「共産党の指導が全てである。民間企業だろうと国有企業だろうと、一切の重要な方向性を決定する時、党の指導に従わねばならない」と語った。
 習近平主席の目標は、世界的に競争力を持つ中国企業を発展させる事である。国有企業か民間企業か、それ自体、さほど重要ではない。習主席にとって重要なのは、企業が党のリーダーシップに必ず従うか否かである。
 第2に、キャピタル・エコノミクス(Capital Economics)のシンガポール駐在の中国経済研究員、ジュリアン・エバンズ・プリチャード(Julian Evans-Pritchard)は、「習近平主席が、国有企業をより強力化、より優秀化、より巨大化しようとしている。そして、国有財産の流失を抑えようともしている」と述べた。
 また、「習主席が第2任期中に国有部門をマーケットに委ねる改革を行うだろうと幻想を抱いていた人々は、諦めざるを得ない」と語っている。
 更に、エバンズ・プリチャードは「中国経済の問題は、国有企業が非効率な点にある。同時に、共産党が経済に過度に干渉する点である。この問題は、習近平第2期目内で解決できないだろう」と述べた。
 第3に、国際通貨基金(IMF)のアジア・太平洋課のアシスタントディレクター、ジェームズ・ダニエル(James Daniel)は北京高官から「多くの国有企業は、効率的ではなく、資源を浪費している。民営部門を一部開放し、最も効率の悪い国有企業は閉鎖しなければならない」との話を聞いたという。
 第4に、ピーターソン国際経済研究所(Peterson International Institute for Economics)の中国経済の専門家、ニコラス・ラーディ(Nicholas Lardy)によれば、国有企業の収益率が2〜2.5%しかなく、これは民間企業の4分の1に過ぎないという。他方、国有企業は銀行からの借入が段々と大きくなっている。そのため、国有企業の数が増えるほど、中国のGDPは押し下げられる。民間企業は有効に投資し、しっかり債務返済するが、国有企業は借入額が大きいという。
 第5に、米ブルッキング研究所の中国学者であるデビット・ダラー(David Dollar)は、今年10月25日にネット上に中国経済が直面している問題に関する文章を発表した。
 それによると、中国は一貫して、主に巨額な融資による投資によって高成長を刺激してきたという。2008年の世界的金融危機(「リーマン・ショック」)前、中国経済はGDP1元を増やすのに、1元投資するだけでよかった。ところが、昨今、中国経済は 1元の価値を創造するのに、3元の投資を必要としていると指摘した。そのため、北京政府の債務がGDP比で急増し、中国経済は目前の過剰なレバレッジで、既に危険領域に突入しているという。
 実は、習近平主席は、国有企業であろうと民間企業であろうと、共産党の組織を作るよう命じている。
 英『エコノミスト』誌(2017年10月26日)によれば、江沢民政権下、業績の悪い国有企業は閉鎖された。その際も、民間企業は、共産党から企業内に党組織を作るよう求められたという(従って、習近平政権の施策が初めてではない)。但し、当時、共産党員の存在が、民間企業の業績を悪化させたわけではないという。
 例えば、現在、中国の大手インターネット・サービス企業「テンセント」(騰訊。広東省深圳市)では、従業員のおよそ23%にあたる約7000人(全体では3万1000人以上の従業員を抱える)の党員を雇用している。その60%が社内で重要な地位に就いているという。
 もしかすると、これらの数字は、馬化騰CEOが共産党に対し“忖度”した結果ではないだろうか。