澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -258-
「台湾代表」盧麗安の「19大」参加

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 周知のように、中国では今年(2017年)10月18日から24日まで、北京で中国共産党第19回全国代表大会(「19大」)が開催された。
 その際、意外な事が起きた。台湾出身の「上海台湾同胞聯宜会」会長、盧麗安が「台湾代表」として「19大」に出席したのである。盧は2022年まで中国共産党の「台湾代表」を務める(ただし、共産党からすれば、正確には「台湾代表」ではなく、「台湾省代表」である)。
 このささやかなに見える“事件”が、台湾で大きな波紋を広げている。
 もともと、盧麗安は高雄市旗山区出身である。盧は国立政治大学を卒業した。その後、イギリスへ留学し、英グラスゴー大学で博士号(英文学)を取得している。そして、同じイギリス(エジンバラ大学)で学んでいた台湾人男性、沈一汎(現、復旦大学教授)と結婚した。
 1997年、盧は大陸へ教えに行くのと同時に中華人民共和国籍を取得している。現在、盧は復旦大学教授で専門は英文学である。
 盧麗安は以前「台湾を愛しているし、祖国大陸も愛している」と言っていた。そのため、盧の故郷、高雄市の人達は、彼女に対し違和感を抱いていたという。
 実は、盧麗安の祖父、盧老枝は高雄旗山の出身で、かつて日本に留学したことがある。祖父は旧制大阪高等学校(新制大阪大学教養部南校の前身)へ進学し、京都大学農学部を卒業した。日本時代、祖父は高雄の台湾人名士だった。戦後、旗山中学の校長となっている。
 また、父親の盧建志は医師で、屏東病院の院長だった。母親の蒋美桜は旗山中学の教師をしていた。この家系や家庭環境を見る限り、なぜ盧麗安が中国共産党に入党したのか摩訶不思議である。
 2015年、中国共産党上海統一戦線部長(当時)、沙海林(現、上海市人民代表大会常務委員会副主任)が盧麗安を同党に入党させている。
 結局、盧麗安は中国共産党による両岸「統一戦線」工作に利用されている見るべきだろう。
 さて、台湾の場合、一般的に他国籍を取得したからと言って、必ずしも中華民国籍を離脱する必要はない。政府が暗黙のうちに、二重国籍を認めている(放任している)からである。ただし、公職に就く者はその限りではない。
 今更言うまでもないが、中台関係は微妙である。台湾側の「両岸人民関係条例」では、台湾人でありながら、中国共産党に入党した者は、中華民国籍を剥奪される。
 先月10月26日、台湾の国家安全局副局長、周美伍は同条例に従い、盧麗安(と19歳の息子)の戸籍をすでに抹消したと発表した(夫の沈一汎は2015年に除籍されている)。
 一方、中国の場合、我が国同様、他国の国籍を取得した者は、二重国籍が認められていないので、必ず中華人民共和国籍から離脱しなければならない。反対に、中国の国籍を取得した者は、他国籍を捨てる必要がある。中国側からすれば、盧麗安は、建前上、すでに中華民国国籍から離脱している。
 この台湾政府による盧麗安の国籍剥奪に対し、洪秀柱(元中国国民党主席)はこれを厳しく非難した。洪は政府のやり方は過激であり、両岸関係にとって良くないと主張している。
 その後、まもなく、また不思議な事が起きた。台湾出身と称する王裕慶という北京大学国際関係学部博士課程在学中の学生が、来年3月、中国の両会(全国人民代表大会と政治協商会議)後、中国共産党に入党を申請すると公言したのである。普通ならば、王は盧麗安の影響を受けたと考えられよう。
 10月31日、行政院大陸委員会の張小月主任委員は、台湾人が中国共産党に入党するのは「両岸人民関係条例」の第33条に違反する行為であり、10万台湾元以上、50万台湾元以下(日本円で約38万円から約190万円)の罰金に処されると明言した。
 王裕慶は、台湾は民主主義社会なので、個人の信仰や自由は尊重されるべきだと言う。また、王の中国共産党への入党は、出世やカネのためではないし、台湾を売るつもりもないとも述べている。
 ただ、王裕慶は、『環球時報』に対し、自分の家族は李登輝が推進した「本土化」政策が不満で、1993年、カナダへ移住したと語っている。だとすれば、王は台湾国籍を持っているのか、それともカナダ国籍を持っているのか(その両方を持っている可能性も排除できない)。
 仮に、王裕慶がカナダ国籍(=カナダ人)ならば、今回の王の発言は何の意味があるのだろうか。不可解である。王が台湾・カナダの二重国籍を持っている場合も、似たようなものではないか。