澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -261-
トランプ大統領の日韓中歴訪と北朝鮮

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)11月14日、トランプ米大統領が就任後、初のアジア歴訪を終えた。
 まず、同月5日、トランプ大統領は日本(2泊)を皮切りに、韓国(1泊)・中国(2泊)を順に訪問している。次に、トランプ氏は、ベトナムでのアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に出席した。その後、フィリピンでの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議にも参加した。
 安全保障の面から見れば、トランプ大統領外遊の最重要課題は、北朝鮮問題だった。米国とその周辺国で、いかに北朝鮮の核・ミサイル開発を止めさせるかである。もし可能ならば、米国は北に核兵器を放棄させたいだろう。
 そこで、トランプ大統領は、第1に、日韓を訪問し、米日韓の3国でスクラムを組み、北朝鮮に対抗しようとした。トランプ大統領と安倍晋三首相は、北への対応で完全に一致している。だが、韓国の文在寅大統領は日本との連携を嫌い、かつ、中国への配慮からか、米日韓の結束に難色を示した。
 第2に、トランプ大統領は訪中した際、習近平主席に対し、北朝鮮が核・ミサイル開発を止めるよう圧力をかけて欲しいと迫った(同時に、同大統領は、習主席に米中間の巨額の貿易赤字解決も迫っている)。けれども、習近平政権(「太子党」+「之江新軍」=習近平派閥)は、金正恩委員長に対しては、殆ど影響力を持っていない。
 周知の如く、かつて主に江沢民政権が北朝鮮に核・ミサイル技術を供与したのである。また、依然、江沢民系「上海閥」は金王朝に食糧やエネルギー等を支援し、その体制を支えている。従って、今の北京政府とは異なり、「上海閥」(旧瀋陽軍区、現北京軍区)は、北に対し一定の影響力を持つ。
 2012年秋、習近平主席は党総書記に就いてから、王岐山を使って、現在に至るまで「反腐敗運動」を展開した。そして、習政権は、北朝鮮に影響力を持つ「上海閥」を徹底的に叩いている。
 そこで、「上海閥」は、習政権を揺さぶり面子を潰すために、北を利用して、重要会議・イベントの初日(ないしは2日目)に核実験・ミサイル試射させているのではないか。或いは、金委員長自ら習主席を困惑させるために、故意に核・ミサイルで米国や日本等を挑発している可能性も捨て切れない。トランプ大統領は、この事実を知らずに習近平主席に北への影響力行使を要請しているのだろうか。まさか、そんな事はあるまい。米中央情報局(CIA)には、優秀なスタッフが揃っているはずである。
 ところで、トランプ大統領のアジア歴訪に合わせて、金正恩委員長は核実験かミサイル試射を行うとの噂が流れていた。しかし、北朝鮮は何の動きを見せず、沈黙している。これは嵐の前の静けさなのか。
 今回、トランプ大統領の外遊とほぼ時を同じくして、米空母3隻(「ミニッツ」「ロナルド・レーガン」「セオドア・ルーズベルト」)が日本海を遊弋している。その米空母3隻は、11月11日から14日にかけて演習を行った。西太平洋では10年ぶりだという。異例である。
 更に、米空母は、海上自衛隊の護衛艦や韓国海軍のイージス駆逐艦とそれぞれの共同訓練を行う予定になっている。当然、北朝鮮は、その演習に対して反発している。けれども、北は今のところ、国際社会に対する挑発行動を起こしていない。ひょっとして、金正恩委員長が米国の軍事的圧力に恐れをなしたか。それとも、「上海閥」が金委員長に核実験やミサイル試射を自制させたのか。或いは、北朝鮮に対する国際的経済制裁が徐々に効いてきたのだろうか。
 仮に、この状況下で、米朝が直接対話を始めれば、今般の朝鮮半島危機が一旦収束する可能性がないわけではない。しかし、金委員長は、今後も核・ミサイル開発を止める気はないだろう。核・ミサイルは、金王朝のいわば“切札”となっているからである。他方、米国も“安易に”北朝鮮の核保有を認めるわけにはいかないはずである。
 今後も米朝共に妥協点が見出せない限り、依然、朝鮮半島危機は継続する。そして、日韓中を巻き込む米朝戦争(「第2次朝鮮戦争」)が勃発する公算が小さくないだろう。