澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -263-
広東省でのゴミ焼却発電をめぐる住民デモ

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2017年)11月、広東省肇慶市高要区で大規模な住民デモが発生した。
 同8日、高要区楽城鎮の住民がデモを開始、同鎮政府前に集まり、示威行動を行った。2日後の10日、当局は数千名の警察を楽城鎮へ派遣して住民を殴打し、逮捕している。
 実は、昨年6月、肇慶市政府は高要区にゴミ焼却炉発電工場建設を公表した。そして同25日、禄歩鎮崗仔頭村で住民説明会を行っている。
 肇慶市環境保護局は、以下のように語った。
 第1期工場建設終了時、1日当たり1000トン(年間36.5万トン)のゴミの焼却が可能、年9400万キロワットの電力が供給できる。そして、全体の工場建設が完成すれば、1日当たり1500トンの焼却が可能となる。
 もし、ゴミ処理会社を建設し、運営管理すれば、肇慶市端州区、鼎湖区、高要区及び徳慶県の一部の村や町で、約160万人の雇用が創出される。
 但し、ゴミ焼却発電にはかなりのリスクが伴う。(1)悪臭やダイオキシン発生に対し厳格に対処できるか(2)プロジェクトで生成される廃水全てを外に出さないように深度処理できるか(3)スラグ(鉱滓)やフライアッシュ(微細粒子)を厳重に処分できるか等、様々な問題を包含する。
 よく知られているように、香港に隣接する広東省住民は、環境に対する意識が高い。また、自らの権利意識も強い。
 結局、翌7月2日、肇慶市高要区禄歩鎮人民政府は、前日(1日)の全禄歩町村委員会や村民幹部の意見を踏まえ、「肇慶市環境エネルギー発電プロジェクト土地収用中止に関するお知らせ」を発表、プロジェクトの一時中止を打ち出した。
 だが、地域住民らは、これは単なる政府の“引き伸ばし戦術”に過ぎないと考えた。彼らはゴミ焼却発電工場建設による環境悪化や西江(国内では揚子江、黄河に次ぐ3番目の長さ)の水質汚染を恐れていたのである。
 そこで、同3日には、全部で10万人以上の禄歩鎮住民は(学校を含む)ゼネストを敢行、9万人がデモに参加した(肇慶市委員会宣伝部は、デモ参加者1300人と発表している)。その際、デモを扇動したり、挑発したりした住民21人が警察に逮捕されている。
 今般、昨年一旦打ち切られたゴミ焼却発電工場建設プロジェクトが再び動き出した。当然、肇慶市高要区住民は工場建設に反対する。
 さて、中国国内で環境保護を求めるデモは決して珍しくない。
 例えば、2014年9月13日(土)、広東省恵州市博羅県では、一部住民数千人(約2万人説もある)がゴミ焼却工場建設反対のデモを行っている。
 博羅県政府は、ゴミ焼却炉の建設で毎日700トンのゴミを焼却でき、同時に、発電も可能だと説明していた。当地の生活ゴミ無害化処理は「第12次5ヶ年」(2011年~2015年)の重要プロジェクトの一つと位置付けられていたのである。
 けれども、同県に住む環境汚染に敏感な人々が、人民政府の警告を無視、拘留覚悟で政府のオフィスビルへ向かって抗議活動を行った。その際、住民24人が警察に逮捕されている。一週間後の20日(土)にも、一部住民によるデモが起きた。
 また、2015年4月には、広東省羅定市朗塘鎮で、一部の住民が華潤セメント(羅定)有限公司よる廃棄物焼却場建設(総工費およそ1.13億元<約19.21億円>)に反対し、当地市政府の門で抗議活動を行った。その時、住民による公共物破損等、過激な行動が見られたという。結局、羅定市政府は、華潤セメントのプロジェクトを中止している。
 更に、2016年6月(最終日曜日)、内陸部の湖北省仙桃市では、雨にもかかわらず、10万人の地域住民がゴミ焼却場建設反対の抗議デモを行っている。
 住民らは警察署を取り囲み、既に逮捕されているデモ参加者の解放を要求した。その際、機動隊が駆けつけ、民衆を武力で排除している。
 しかし、最後には仙桃市長自ら姿を現し、ゴミ焼却工場建設の中止を宣言した。
 丁度その一週間後に、広東省肇慶市高要区で最初の大規模デモが起きている。
 今や、中国において環境保全は、最重要テーマの一つとなっている。習近平政権はこの難しい課題にどのように取り組んで行くのかが注目されよう。