厳寒の中で熱狂するベトナム

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 日本も東京が何年か振りの大雪に見舞われるなど厳しい寒さの中にあるが、南国ベトナムにも寒波が到来している。首都ハノイでは数日前から気温が10度を下回り、幼稚園が休園、小学校が休校になっている。最低気温が7度を下回れば中学校も休校になるという。ベトナムはハノイのある北部が亜熱帯、ホーチミン市のある南部が熱帯地方に位置するので、1年を通じて総じて暑い日が多い。しかし、北部の場合は一応冬らしい季節があるので、何年かに一度は学校が休みになるような寒い日も訪れる。
 ところが、先週末、この寒さにも拘わらず、ハノイ市民を含めたベトナム国民全体が熱狂する状況が発生した。その理由は、このほど中国で開催された23歳以下のアジア・サッカー大会でベトナム・チームが史上初めて決勝に進んだこと。日本は早々にウズベキスタンに0-4で敗退して姿を消したが、ベトナムは韓国、オーストラリアなどの強豪チームと同じ一次リーグを勝ち進み、準決勝ではPK戦の末にイラクを、準決勝ではカタールを破り、遂に、ウズベキスタンと決勝戦を戦うことになったのである。
 一試合を勝ち進むごとにベトナム国民の熱が上がり、決勝戦ではそれが頂点に達した。ハノイ市内では多数の警察官が動員されて交通整理に当たっている。街はスクーターに乗った若者が溢れ返り、「脱衣ギャル」も登場してSNSを賑わした。熱狂的な応援団はにわかにチャーター便を手配して大挙して中国に向かったらしい。1月27日の決勝戦では延長戦の末に惜しくも1-2で敗れて快挙はならなかったが、初の「準優勝」にチームの選手たちは熱狂的な歓呼の中を帰国した。ハノイでは空港から市内まで国旗を掲げた多くのサポーターが沿道を埋め尽くしたという。
 この話には余談があって、選手が帰国したフライト(べトジェット・エアのチャーター便)の中で航空会社側が水着ショーを開催したことが「不適切なこと」として世論の批判を受けたらしい。女性たちが選手と「交流」しているところを撮影した動画がフェイスブックに流出したことが発端である。航空会社側は選手を喜ばすためのサプライズとして企画したと説明したが、文化スポーツ観光省は公序良俗に反するとして交通運輸省傘下の航空局に同社の処分を要請している。
 サッカーは今やベトナムで最も人気のあるスポーツになっている。優秀な選手もおり、欧州のチームで活躍するスター選手も出始めている。日本でも一昨年に2部の水戸ホーリーホックがベトナムで絶大な人気を誇る若手選手を1年間借り受けたことがある。同選手の活躍を一目見ようというベトナム人ファンがチャーター便で本国からも駆けつけたらしい。今や、日本にはベトナムからの技能実習生や留学生が溢れ、身近に彼らを見る機会が増えたが、サッカーを通じた日越交流も進めば大いに嬉しいことである。