「無駄花に終わった文大統領の米朝橋渡し」
―米軍の北攻撃に文大統領は観客の一人―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 韓国の文在寅大統領が演じた米国と北朝鮮との橋渡しの試みは、まさに無駄花に終わった。歴史を振り返ってみれば、オリンピック用に南北合同チームを作った程度で氷解するような問題ではない。よほど深刻な問題だ。
 北朝鮮は最早引くに引けないところにきている。この期に及んで「核製造はやめた」と宣言しても「実証しろ」と他国に踏み込まれるのがオチだ。そういう様相になれば独裁政権は中国からも倒されるだろう。中国は北朝鮮が現領域のまま、中国の属国になることを望んでいる。金正恩指導者が義兄に当たる金正男氏を暗殺したのは、中国と正男氏の関係が深いと勘ぐったからとも言われている。米朝激突となればその機に中国は正男氏の長男を後釜につけて属国化を図るだろう。金正恩を守るために中国が米朝戦争に介入することは考えていないはずだ。
 北朝鮮は2003年にNPT(核拡散防止条約)を脱退し、核開発を始めた。06年10月から昨年9月までに6回の核実験を行った。並行して弾道ミサイルの開発を進め、現時点では核の小型化とICBM(大陸間弾道ミサイル)の完成が近いと見られている。金正恩氏の思惑はワシントンに届く核ミサイルが完成すれば、米国は“対等”の立場で北朝鮮に接しなければならなくなるというものだ。
 ここまでに至ったのはオバマ前大統領の「戦略的忍耐」政策による。これは北が核開発計画を放棄するまで「無視を続ける」という無責任極まる政策である。
 一方、韓国側は金大中大統領の「太陽政策」のあと、朴槿恵大統領の「非核化要求」である。「非核化すれば援助に応ずる」という腑抜けた政策で、これで北の攻撃的性格が改まるわけがない。
 トランプ政権は議会承認を要する要人のポスト624のうち、まだ250程度が未指名だ。米国のジャーナリスト100人が100点満点で評価したところ、12.4点で歴代最下位の評価を受けたという。しかし軍事面だけで評価すれば、この政権はかなりの高得点になるのではないか。ケリー大統領首席補佐官、マティス国防長官、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)と全員将軍で固めている。3人の将軍が揃いトランプ大統領が号令をかければ、軍に関する政権の足並みは揃う。
 17年8月、トランプ大統領はまず「北と交渉する用意がある」と呼びかけだが、北は「火星12号」と呼ばれるミサイルを4発同時発射して答えた。9月には6度目の核実験が行われた。大気圏に再突入する技術が完成したと分かれば、米国はその瞬間に北を攻撃するはずだ。米韓軍事演習は爆撃機や戦闘機が一体となって攻撃体制をとる訓練である。
 これを数十キロ北に移行すれば、瞬時に北のあらゆる攻撃基地は潰される。文大統領は「自分がいる限り戦争はない」と張り切っているが、米軍の指揮権は米軍が持つ。文大統領は観客の一人にすぎなくなる。
(平成30年2月28日付静岡新聞『論壇』より転載)