「『森友問題』に見る日本の官僚の勘違い」
―憲法41条を学べ―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 「森友学園」をめぐる財務官僚の行動を見ると「この連中は憲法41条を知らないのではないか」とさえ思う。41条は「国会は国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と書いている。にもかかわらず大多数の官僚は「行政が最高の権力を持っている」と錯覚している。
 もともと明治政府は何もない所で設定され、議会もあとから設立された。まず国家のモデルを作って、それを民主主義・市場経済の国家に移行させるとの考えだった。八幡製鉄所という鉄鋼所を作り、軌道に乗ったらそれを民間に払い下げるという方式である。こうして先進国に追いついてきたのである。もともと万全の官僚制度など、どこの国にもない。トランプ大統領の所などを見ると、軍人と家族で政治を仕切っている。ヨーロッパ諸国も似たり寄ったりだ。EU官僚の評判が極端に悪いのは民意と関係なく官僚の独善を押しつけるからだ。
 日本も官僚制度から完全に脱却してこそ先進民主主義国と言える。しかし官僚の中で、こういう自意識を持った人物は少ないだろう。民は幼稚だから1から10まで官僚が面倒を見なければならないと思い込んでいる。しかし国鉄を見てみよ。国営でなければ運営できないと官も民も叫んでいたが、JRになってみたら年2兆円の赤字が消し飛んだのである。
 官僚が最高の権力を持つから東大の最優秀の学生はおよそ皆が皆、官僚を目指す。しかしハーバード大学で官僚を目指す学生は最下位ランクの学生だ。民主主義が熟せば熟すほど官僚の地位が下るのは当然なのだ。
 「森友問題」の真相は国会が明らかにしてくれることを期待するが、この際、官僚の行政官としての“分際”も弁えさせてもらいたい。
 加計問題では「面従腹背」を人生訓とする前川喜平・前文科省事務次官が「今治市を特区に決めたのは認められない」と怒っている。行政官が国会で決まった法律に盾突くのはご法度なのである。であるのに前川氏に与していた国会議員もマスコミも何故か多かった。
 官僚が政治家にゴマをするようになったのは公務員制度の改革で「内閣人事局」を作ったからだと強く非難する人がいる。内閣人事局というのは各省幹部約600人をチェックするところである。この部署を設けたから官僚が大臣に言いなりになったのか。
 この部署を作ったのは「省あって国なし」という官僚が多すぎたからだ。国民のためより農水省の部局や農水団体の利益のためだけで働く役人は偉くなれなくなった。この内閣人事局のお陰で、「省あって国なし」の官僚が輩出する宿痾は片付いた。
 政治家が財務省に弱いのは、財務省が予算配分権と国税庁を持っているからだ。国税を切り離して保険と合わせた「歳入庁」を作るのが最善だろう。2つ合わせ持てば、税や保険料を誤魔化せなくなる。
(平成30年3月21日付静岡新聞「論壇」より転載)