澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -281-
第13期全人大と米中貿易戦争の勃発

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2018年)3月20日、中国では16日間に亘る第13期全国人民代表大会(全人代)第1回会議が終了した。
 既報の通り、憲法から国家主席・国家副主席の2期10年という任期が削除された。そこで、習近平主席の任期が終身となる。
 本来ならば、定年で引退を余儀なくされた王岐山だが、中国最高幹部、政治局常務委員(7人)の次の8番目として、国家副主席に就任した。習主席は王岐山に外交や経済の面での活躍を期待しているふしがある。
 中国共産党は「天安門事件」以降、基本的に、江沢民主席と朱鎔基首相、胡錦濤主席と温家宝首相は、常に協力関係にあった(事件直後の江主席と李鵬首相の関係は除く)。
 従って、習近平主席と李克強首相との間でも協力関係が必要である。ところが、第1期目で明らかなように、両者は相性が悪く、特に、経済政策では水と油だった。そこで、第2期には、習主席が李首相を更迭するのではないかという憶測が流れていた。
 今回、李克強首相は、かろうじて更迭は逃れた。しかし、経済担当の副首相には、李首相の“天敵”、劉鶴が充てられている。また、国家発展改革委員会主任には何立峰が、中国人民銀行総裁には易綱が就任した。王毅は、外務大臣から国務委員へと昇格している。だが、重要な事項は未だ楊潔篪が握っているという。
 結局、習近平主席は、人事や制度改革を通じて、外交、経済、軍事に関して、国務院を政策決定機関ではなく、単なる執行機関へと変えてしまったのである。
 さて、全人代閉幕時、習近平主席は台湾と香港を意識して、「中国の主権と領土保全を守り、中国の完全なる統一を実現する」と改めて強調した。
 しかし、周知の如く、2014年3月には台湾では中台間の「サービス貿易協定」の批准をめぐり「ひまわり学生運動」(~4月)が起きた。大部分の台湾人は、中国との統一など望んではいない。
 また、同年9月、香港では同行政長官の選出方法をめぐり、「雨傘革命」(~12月)が起きている。
 最近、香港行政長官の林鄭月娥は、英『フィナンシャル・タイムズ』のインタビューに応じて、「習近平主席の言動は、ますますカリスマ的で賞賛に値すると言わなければなりません」と語っている。
 「親中派」の香港行政長官と「一国両制」の継続を求める香港人との北京への評価には乖離がある。
 ところで、今年3月16日、トランプ大統領は既に米上下院を通過していた「台湾旅行法」に署名した。中国共産党が嫌がっていた法律である。同法律の成立によって、米台の政府高官がお互い自由に行き来ができるようになった。米国の“台湾重視政策”の表れではないだろうか。
 翌17日、ロシアでは大統領選挙が行われた。プーチン大統領が得票率76.7%で再選を果たしている。直後の20日、トランプ米大統領は、ホワイトハウスで記者団に、プーチン大統領に再選の祝意を伝えた事を明らかにした(この大統領の行為には、米国内でも厳しい批判がある)。
 トランプ大統領は、プーチン大統領への対応とは異なり、3月17日の習近平国家主席の再選には、未だ祝電を送っていない。
 習主席と仲の悪い北朝鮮の金正恩委員長ですら、当日、習主席に祝電を送っている。その中には「伝統的な朝中親善・協力関係」という文言はなく、冷ややかな祝電だった。しかし、送らないよりもマシである。
 更に、3月22日、トランプ大統領は、中国による米国の知的財産権侵害を理由に通商法301条を発動し、中国製品を対象に年500億ドル(約5兆3000億円)相当の関税を課すという大統領令に署名した。トランプ政権は、ついに習近平政権に対し、貿易戦争を仕掛けたと見るべきだろう。
 2017年、中国からの対米輸出は2兆9103億元(約48兆1400億円)である。他方、米国からの輸入は1兆0430億元(約17兆2500億円)で、圧倒的な中国側に出超となっている。そのため、今度のトランプ政権の対中措置は、北京政府に対し大きな影響を及ぼすかも知れない。
 かねてより我々が主張しているように、米国は、第2次大戦前、“異質な国家”、日本をターゲットにして打倒した。大戦後は、米国の敵対国で“異質なナンバー2”、ソ連邦をターゲットにして、瓦解させている。そして、今度、米国は“異質なナンバー2”中国をそのターゲットに切り替えて、共産党政権を崩壊させようと目論んでいるのではないだろうか。
 つまりトランプ政権は、西太平洋で米国に挑戦する中国に対し、経済的攻撃を開始したと見るべきではないか。早速、習近平政権は、米国へ報復措置を取ると発表した。しかし、米国への効果は極めて限定的である。