澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -284-
中国農村を監視する「雪亮工程」

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 各種中国語系メディアの報道によれば、中国では「金盾工程」・「天網工程」(後述)に続き、「雪亮工程」が導入されているという。
 今年(2018年)2月、「中央一号文件」(《中国共産党中央国務院郷村振興戦略実施に関する意見》)12項目が通達された。第6項の5番目に「安全な村の建設」とある。そして、その最後に「農村で『雪亮工程』を推進する」と謳っている。
 これは農村部でのテレビ等の家電や携帯電話から個人情報を収集し、県・郷・村を徹底管理するシステムであり、現在、ほぼ完成しつつある。「雪亮」は広東省の家電メーカー、美電貝爾が開発したという。
 さて、中国共産党は前世紀末から「金盾工程」(「グレイト・ファイヤー・ウォール」)と呼ばれるインターネット情報検閲システムを計画・導入し、徐々に実現化してきた。このシステムは中国共産党に不都合な情報や敏感な問題にアクセスできないようフィルタリングを施している。有名なのは「天安門事件」というタームではないか。
 しかし、一部の逞しいネットユーザーらは、VPN(Virtual Private Network)等を通じて、中国共産党の「金盾工程」を突破しているという。
 他方、「天網工程」は、AIによる監視システムで、既に16省市、2000万台以上が設置されている。一瞬で街中の人(顔・服・性別・年齢等)を認識できるという。撮影された顔写真はただちに公安のデータベースに送られ、身分証、電話番号等と共に最新のものにアップデートされる。
 更に、中国共産党は、「天網」システムでは飽き足らず、今度は農村部まで、「雪亮」システムまで普及させようとしている。昨2017年、「雪亮」が四川省だけで4万1695台が設置されたという。現在、同省と山東省で試験運用されている。ハイテクを活用した超監視社会の到来である。
 今の中国の状況を見ると、イギリスの小説家、ジョージ・オーウェルが1949年に発表したSF“暗黒郷”小説『1984』を思い出さずにはいられない。
 『1984』は2度映画化されている。
 まず、1956年版の『1984』(英国での制作)は、マイケル・アンダーソン監督が手がけた。主演は主人公のエドモンド・オブライエン、ヒロインはジャン・スターリングが演じている。
 次に、そのリメイク版が“1984年”に英国で、マイケル・ラドフォード監督、ジョン・ハート主演で制作された。
 世界は超大国の「オセアニアン」(英国・北米・南米・オセアニア・アフリカ大陸コンゴ川以南)・「ユーラシアン」(ロシア・ヨーロッパが中心)・「イースタニアン」(東アジア・中央アジア)に分かれ、三つ巴状態である。その他の地域(東南アジア・南アジア・中東・アフリカ大陸コンゴ川以北等)は3超大国の係争地域として描かれている。
 主人公のウィンストン・スミスは「オセアニアン」に暮らしていた。「ビッグブラザー」と呼ばれる党の最高指導機関がいつも人々を厳しく監視し、すべてを管理コントロールしている。無論、このような社会では、一切、自由もプライバシーもない。
 党は民衆に対して、「二重思考」(double think)を強要する。相反する2つの意見を同時に持ち、それらが矛盾し合うのを知りながらも両者を信奉する。当局は、党への反逆者に対して、拷問し洗脳した。このように『1984』は、余すところなく監視社会の恐ろしさを描き出している。
 因みに、1985年、英国で『未来世紀ブラジル』が制作された。監督はテリー・ギリアム、キャストはジョナサン・プライス、ロバート・デ・ニーロらである。内容は『1984』に酷似している。
 ところで、中国共産党は既述の(最新の技術AIを駆使した)3工程を利用して、全国民を管理・監督下に置いた。同党は、一体、何を恐れて怯えているのか。恐らく“民衆の反乱”よる政権転覆(易姓革命)だろう。
 中国共産党は、半永久的に政権を手放すつもりはない。だから、普通選挙を封じている。基層レベルはともかく、その上の県省市レベルから国家主席(党内選挙は存在するが、あくまでも形式的)に至るまで、未だ自由で民主的な選挙を実施していない。これでは、中国共産党の「支配の正当性」が疑われても仕方ないだろう。
 そのため、中国は独裁的な北朝鮮(=東朝鮮)に対し、いまや「西朝鮮」と揶揄されている。