澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -288-
依然停滞気味の中国経済

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 周知のように、今年(2018年)3月25日、北朝鮮の金正恩委員長が非公式ながらも電撃訪中を果たした(同月28日まで)。金正恩委員長と習近平主席は犬猿の仲だった。それにも拘らず、金委員長はついに北京詣でを実行したのである。
 その理由はいくつもあるが、何と言っても1番は国際社会による対北朝鮮経済制裁が効き、北の経済が逼迫していたからだろう。これ以上、経済が悪化すれば、金王朝が崩壊する。だから、仕方なく金正恩委員長は習主席に会いに行った。だが最終的に、金委員長は中国から北へのカネ・食糧・エネルギー援助を引き出す事に成功したのである。
 さて、近頃、「西朝鮮」と揶揄されている中国の経済はどうなのだろうか。北京政府が発表しているGDP(年率6~7%)とは裏腹に、習近平政権が行っている経済外交は、その苦しさを露呈している。
 第1に、今年2月28日、中国共産党は、「恵台31項」を公表した。台湾企業に大陸企業並みの待遇を与えるという対台湾優遇策である。主な狙いは、将来の「中台統一」を見据え、台湾に対し海峡両岸の融和ムードを演出する目的だろう。
 だが、他方、中国経済が停滞している現在、台湾から投資を呼び込む算段ではないか。中国が台湾を頼っているのである。
 第2に、今年に入り、トランプ米大統領が秋の中間選挙を意識してか、各国に対し鉄鋼やアルミに関税をかけると発表した。この政策は、中国にとって打撃となる。
 更に、3月22日には、トランプ米大統領は中国からの輸入品に対し、600億ドル(約6兆4000億円)相当への追加関税をかけると公表した(同時に、中国企業による米国内への投資制限する制裁も発動)。これは、中国が長年に亘った米国の知的財産権侵害への報復措置である。
 当初、北京政府はトランプ政権の措置に反発して、米国に対し関税をかけると息巻いていた。ところが、今月4月10日、海南島のボアオ・アジア・フォーラムの開会式で、習近平主席が唐突に海外(特に米国)へ知的財産権を守ると言い出した。更には、習主席は輸入拡大を目指すと述べた。
 その結果、「米中貿易戦争」は、瞬く間に雪解けへと向かっている。おそらく、北京は自国経済が脆弱で、とても米国との「貿易戦争」には勝てないと踏んだからではないか。
 第3に、その5日後の15日、王毅外相が来日した。そして、王毅外相は河野外相と会談し、日中間の「全面的な関係改善」を進めていくことで一致したという。中国共産党としては、日本に対し尖閣諸島問題等での妥協はあり得ない。結局、8年ぶりの「日中ハイレベル経済対話」が行われた。
 仮に、中国経済が絶好調ならば、わざわざ王毅外相が訪日する必要はない。如何に中国経済が良くないかを如実に物語っている。
 我々がいつも主張しているように、習近平政権は(小さな政府を目指す)「サプライサイド経済学」を掲げながら、実際は、それと真逆の政策を採っている。例えば、利潤率の良い民間企業ではなく、利潤率の悪い国有企業を重視する。
 今年1月23日、中国財政部は「国有企業利益総額、2017年は23.5%増」と発表した。「同年の国有企業利益総額は、前年比23.5%増の2兆8985億9000万元に達した」という。
 そして「業界別に見ると、鉄鋼、非鉄金属など昨年赤字に陥っていた業界は黒字化を実現し、石炭、交通、石油・石油化工などの業界の利益率は前年を大きく上回った。その一方で、電力などの業界の利益は前年比で大幅に減少した」と述べている。
 しかし、この財政部の数字を素直に受け取ることはできない。何故なら、財政部が、国有企業を優先する習近平主席の意向を“忖度”した結果だと思われるからである。
 今まで、国有企業はせいぜい2〜3%の利益率しかなかった。それが、急にその10倍にもなるだろうか。目下、「反腐敗運動」で大半の官僚がヤル気を失っている。だから、「何もしないのがベストだ」という風潮が社会に蔓延している。従って、国有企業が20%以上もの高い収益を得るというのは、俄かには信じがたい。