澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -297-
関税で中国を揺さぶる米国と米朝首脳会談

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 周知の如く、現在、米国は、米中貿易戦争で中国に揺さぶりをかけている。
 トランプ政権は、今年(2018年)3月から、次々と輸入関税品目を拡大した。米商務省は、まず1000億米ドル(約11兆円)相当の、次に1000億米ドル(同)相当の輸入関税を課した。更に、5月29日、500億米ドル(約5.5兆円)の輸入関税を追加した。言うまでもなく、主な対象国は中国である。
 トランプ政権は、今秋の中間選挙を睨んで、対中貿易赤字を大幅に減らそうと努めている。もし米国経済が好調ならば、秋の中間選挙で共和党が勝利する公算が大きくなるだろう。
 仮に、事態がそのように推移すれば、大統領自身の(前回の大統領選挙での)「ロシア疑惑」に関して、議会からの追及をかわせるかもしれない。同時に、2020年秋の大統領選挙で、トランプ大統領再選の目も出てくる。
 反対に、中間選挙で共和党が敗北すれば、民主党による大統領の「ロシア疑惑」への追及が本格化するだろう。そして、最悪の場合、大統領の弾劾(或いは辞任)まで至る可能性も排除できない。
 トランプ大統領にとっては、景気の良し悪しが、今秋の中間選挙のみならず、今後の大統領の命運にも大きく影響すると考えられよう。
 さて、以前から我々が主張しているように、米国は第2次大戦前から、異質である強大な国家を異端視し、それを潰そうとしてきた歴史がある。
 米国は、戦前は日本を、戦後はソ連邦を異端視して、最終的に潰しに来た。前者は、実際の戦争で、後者は米ソ軍拡競争で米国は勝利を収めている。
 21世紀に入ると、米国は中国を異端視し始めた。目下、トランプ政権は、習近平政権をターゲットにし、米中貿易戦争を仕掛けている。
 ワシントンは、いざとなれば、武力で北朝鮮の金王朝を叩き潰す方針だろう。だが、それは表面上の話で、“本丸”は北の後ろに控えている中国ではないか。
 先月(5月)7日・8日、金委員長が大連へ飛び、習近平主席と2度目の中朝首脳会談を行った。それ以来、北朝鮮の態度が急変したとトランプ大統領は指摘している。
 おそらく、金委員長は、習主席から何らかの支援を与える約束を取り付けたと推測できよう。そこで、北朝鮮は、再び対米強硬路線(=瀬戸際外交)へと舵を切った。すると、すぐさまトランプ政権は、米朝首脳会談を取りやめると示唆した。ひょっとして、平壌に誤算があったのかもしれない。
 だが、依然、トランプ大統領は、6月12日、シンガポールでの米朝首脳会談を模索している。水面下では、米朝間で活発な駆け引きが繰り広げられているという。
 大統領も金委員長も、本音として、米朝首脳会談を予定通り行いたいのではないか。トランプ大統領としては、(ノーベル平和賞受賞はともかく)米朝首脳会談が成功すれば、必ずや中間選挙に有利に働くはずである。
 他方、金正恩委員長にしても、自身が世界1の大国、米国と対等に話し合える人物だと国内外にアピールできる。また、金委員長にとって、米国から北の体制保証と自身の安全確保を取り付けるチャンスでもある。更に、北朝鮮は米国・日本・韓国から多大な経済支援を得る絶好の機会ではないか。
 但し、問題は北が最終的に核を廃棄するか否かだろう(この点に関して、我々は否定的である)。
 ところで、米中首脳会談開催が危ぶまれた途端、金正恩委員長は、早速、5月26日、文在寅韓国大統領と板門店で第2回目の南北首脳会談を行った。
 また、同30日、朝鮮労働党中央委員会の金英哲(キム・ヨンチョル)副委員長が訪米し、ポンペオ国務長官と会談している。翌31日、北朝鮮は、ラブロフ・ロシア外相を平壌へ招き、李容浩(リ・ヨンホ)外相がラブロフ外相と会談した。
 平壌は、6ヵ国協議のメンバーである米国・中国・ロシア・韓国と次々と会談を重ねている。ただ、我が国の安倍政権は、直接、平壌とは話し合うつもりはないようである。
 無論、日朝間には、拉致問題が横たわっている。しかし、安倍首相は、一歩引いて北朝鮮の動向を眺めている観がある(因みに、6月7日、ワシントンで日米首脳会談が予定されている)。
 結局、今月、米朝首脳会談は開催されるかもしれない。けれども、トランプ政権が、北の段階的核廃棄(時間稼ぎ等)に疑義を持つようならば、会談が流れる公算もある。