澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -299-
習政権の「信用中国」による人民監視体制

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 現在、中国では、アリババによる「芝麻信用」(セサミ・クレジット)、テンセントによる「騰訊信用」(テンセント・クレジット)等が、個人の信用度を査定している。
 我が国でも、個人が不動産を購入する際、銀行やノンバンクは、その人の過去の年収等で返済能力を評価する。カード・ローンが発行される場合も、同様である。仮に、銀行・ノンバンクがしっかりした査定をしないで個人にカネを貸し付けたら、それが不良債権化して、自らの首を絞める事態に陥るだろう。
 アリババ(馬雲は創業者)やテンセント(馬化騰CEO)等が個人に対して行う査定に関して、企業側と本人だけが知っている事なので、個人情報が漏洩しない限り、何ら支障はない。
 けれども、中国の民間企業には、共産党員が幹部や従業員として雇用されている。公私が未分化で、截然と分かれていない。そのため、純粋な私企業なのか、それとも第三セクター(官民共同)的企業なのか、見分けるのが難しい。
 問題は、アリババやテンセントが個人情報を中国共産党へ提供していないかどうかである。北京政府及び地方政府へ個人情報が流れている可能性を排除できない。
 さて、2015年6月1日、習近平政権は、政府主導の「信用中国」(クレジット・チャイナ)を立ち上げた。この組織は国家発展改革委員会・中国人民銀行が指導し、国家情報センター(前者の下部組織)が主導する。そして、百度(李彦宏CEO)が技術提供している。
 李彦宏(ロビン・リー)は、北京大学出身の俊才である。大学卒業後、李は米国ニューヨーク州立大学バッファロー校で修士号を取得した。北京大学の同学年に、蕭建華(同じく北京大学出身)の妻、周虹文がいる。
 昨2017年1月、投資ファンド「明天系」の総帥、蕭建華(「上海閥」と関係が近いという)が、香港の高級ホテル、フォーシーズンズから失踪した。その際、妻の周虹文も一緒に失踪している(周はまもなく解放された)。
 結局、蕭建華は、中国当局から1500億元(約2兆5500億円)を押収され、解放されたと伝えられている。
 当然、「蕭建華拉致事件」では、李彦宏も当局から事情聴取を受けたという。従って、おそらく李は中国共産党(特に「上海閥」)と深い関係だと推測できよう。
 ところで、「信用中国」は、第1に、表向きは国家(各省庁)・地方自治体・企業・個人等の信用度を向上させるためのシステムと謳われている。だが、北京の真の狙いは国家による個人管理システムの構築ではないか。
 周知のように、中国には、(1)インターネットを監視する「金盾」システム(2)都市を監視する「天網」システム(3)農村を監視する「雪亮」システムが導入されている。以上の3システムほど直接的ではないが、「信用中国」は使い方次第で、第4の人民監視システムとなるだろう。
 第2に、「信用中国」は、信賞必罰方式を採る。モデルとなる地方自治体や企業等は、当局から表彰を受ける。
 今年(2018年)1月、国家発展改革委員会・中国人民銀行は、各方面で信用度の高いモデル都市を公表した。だが一方、(政府転覆を扇動した等の)素行の悪い人間に関しては、“ブラックリスト”を作成しているふしがある。
 第3に、「信用中国」は、あらゆる分野で様々な信用調査を行う。
 今年6月1日、「観光分野において深刻な信用喪失に関連した責任主体に対する共同懲戒実施の協力に関する備忘録」が公布された。
 この「備忘録」は、本来、観光業務で信用を傷付けた人に関して、名前を公表する。そして、180日間、鉄道への乗車、飛行機への搭乗等を制限する。原則、これは、観光業務での信用失墜を招いた人への対応である。
 ところが、昨年12月、楽視集団(LeEco)の賈躍亭(現在、米国ロサンジェルス在住)は、各種の支払いが滞っているため、裁判所に信用失墜宣言されている。そして、早速、賈躍亭はこの「備忘録」(180日間、鉄道への乗車、飛行機への搭乗等を制限)が適用された。
 このように、中国では各部門の情報が“集中管理”されている。