澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -303-
ますます厳しさを増す中国経済

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 最近の中国統計を見る限り、相変わらず中国経済が良くない。投資・消費・貿易の3本柱が、いずれもパッとしないのである。
 第1に、投資である。今年(2018年)6月14日、国家統計局が公表した数字では、1〜5月、全国固定資産投資は約21.6兆元で、前年同期比で僅か6.1%しか増えていない。昨17年同期(1~5月)比は8.6%増なので、2.5ポイントも減少している。
 今年1~5月までの投資の内訳として、国有企業投資は4.1%増、民間投資は8.1%増だった。
 更に詳細に見ると、国内企業の投資は、前年同期比で6.6%増えたが、香港・マカオ・台湾企業の投資は、同-5.2%、外国企業も同-1.1%と落ち込んでいる。香港・マカオ・台湾企業をはじめ、外資が如何に中国への投資を手控えているのかが窺えよう。
 第2に、消費はどうか。6月14日、国家統計局が公表した数字に拠れば、(今年1-2月は9.8%増以降)3月は前年比10.1%増だったが、4月には同9.4%、5月には同8.5%と右肩下がりとなっている。
 統計局の資料では、2012年・2013年・2014年・2015年・2016年には、(1-2月期を含む)全月が2桁成長だった(特に、2012年は前年同月比13%台~15%台で推移している)。
 昨2017年でさえ、1-2月期には前年比9.5%、12月には同9.4%の1桁増にとどまる以外、3月~11月まで連続して2桁成長を遂げた。ところが、今年に入ると、既述の如く、3月以来、4月、5月と消費が急落している。特に、先月の8.5%増という数字は、かなり深刻だと見るべきだろう。
 実は、今年3月24日、中国商工銀行董事長(理事長)の易会満は、以下のように語っている。
 (1)2013年、中国における家庭の負債はGDPに占める割合が33%だったが、2017年、49%まで増大した。
 (2)2010年以前、中国の貯蓄率は16%だったが、2017年には、7.7%まで下落している。
 (3)2010年貯蓄率と可処分所得の合計が25.4%にのぼった。だが、2017年には12.7%へと半減している。
 一時、中国の消費が大幅に伸びていると喧伝されたが、事実は数字が示す通りである。
 第3に貿易である。2015年、2016年、中国貿易の数字は目を覆いたくなるほど悪かった。輸出入ともに各月、大部分が前年同月と比べ、マイナスだったのである。漸く昨17年になると、輸出入が好転し始めた。
 だが、今年6月15日、トランプ米大統領が、500億米ドル(約1.1兆円)の中国からの輸入製品(1102品目)に対し、25%の関税をかけると宣言した。 
 それらは、北京政府の「中国製造2025年」戦略計画に関係し、電子、機械、半導体、航空、宇宙等の品目である。従って、今後、中国の新興高度科学技術産業に重大な影響を与えるに違いない。
 習近平政権は対米報復関税をかければ輸入が減り、自国のクビを絞めるだけである。圧倒的出超の中国と圧倒的入超の米国がお互いに輸入関税を掛け合えば、どちらが不利か誰でも分かるだろう。
 それにも拘らず、翌16日、北京は米国に対し報復関税をかけると発表した。659品目、総額500億米ドル(約5.5兆円)規模の米国製品に25%の追加関税をかけるという(米国同様、7月以降、段階的制裁の発動予定)。
 これでは、中国国内の不景気にますます拍車がかかるだけではないか。習近平政権は、面子重視の政治優先で、合理的経済政策を打ち出していない。
 最後に、中国の不動産について触れておこう。前述のように、目下、中国では景気は良くない。しかし、不動産価格は上昇傾向にある(もしかすると、地方政府が、足りない税収を不動産売買で補填する算段なのかもしれない)。
 1・2線級(1線級は北京、上海、深圳等、2線級は青島市、廈門市、西安市、寧波市、長沙市等)の有力都市ならば、価格が高騰し、その後、急落しても、また新しい購入者が現れる公算がある。
 けれども、3・4線級の地方都市の場合、そうはいかない。一旦、価格が下落したら最後、別の購入者が現れる事は殆どないだろう。地方住民には、購買力が欠けているからである。仮に、3・4線級の地方都市で不動産バブルが弾けたら、北京は、にっちもさっちも行かなくなるに違いない。
 中国経済の近未来は視界不良である。