澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -305-
国家研究所報告をネットから削除した習政権

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2018年)6月26日、「国家金融と発展実験室(研究所)」(National Institution for Finance & Development)がインターネットに「(仮訳)中国で金融恐慌が発生する可能性が高い」という文章を公開した。
 だが、由緒ある研究所(元々は「中国社会科学院金融実験室(研究所)」系)が作成した金融レポートが、ネットからたちまち削除されたのである。おそらく正鵠を射た内容であるがゆえに、北京政府は容認できなかったのではないか。
 レポートは4つのポイント―(1)クレジット総額の伸びが鈍化(2)厳しさを増す企業の資金調達環境(3)レバレッジに厳しい規制が加わり、クレジット市場でデフォルトが頻発(4)再び高まる株式市場のリスク―を挙げている。一部を抄訳してみたい。
 (1)今年5月、わが国の広義の通貨(M2)は前年比8.3%増となり、予想された8.5%を下回った。
 シャドー・バンキングの規模が縮小した上、クレジット・デフォルトが続発し、クレジット債券発行が難しくなっている。それが背景にあって、5月の企業資金調達規模の成長率は10.3%にとどまり、過去最低だった10.5%を下回った。
 今年5月には、新規の企業資金調達規模は急激に縮小し、7608億元(約12兆9300億円)を記録した。前年同期比で30%近くも減少し、前月比で50%以上も減った。新規融資以外のシャドー・バンキングや債券プライマリィ市場は、明確に縮小傾向を示している。
 (2)企業活動を最もよく反映するのは、非金融企業の中長期貸付ローンである。その新規ローンが今年最低水準となった。
 このような状況は、今年5月、中国製造業の購買担当者指数(Purchasing Managers Index=PMI)の予想を超える増加とは対照的である。これは、企業の資金調達環境が厳しいだけでなく、銀行の企業向け長期資金貸付が下降している。
 (3)厳しい監督と調整の下で、経済のデレバレッジ(借入の減少)のプロセスが加速し、シャドー・バンキングの縮小傾向が顕著である。信託ローン、委託貸出金(企業間貸借に銀行を介在させる「委託貸付」という銀行サービス<銀行員.com>)、割引手形、3つの合計はおよそ5200億元(約8兆8400億円)に達する。過去2ヵ月間、デフォルトの波の影響で、社債の資金調達額は434億元(約7378億円)も減少した。そのため、11ヵ月ぶりの純減となっている。
 シャドー・バンキングの資金調達経路が徐々に限定されるに従い、企業の資金調達の成長率は更に低下している。5月以降、簿外融資(貸借対照表上に記載されていない債務。例えば、デリバティブや会計操作による飛ばし行為等)に依存していた企業は、資金調達経路が限られ、再融資を受けるのが困難になり、デフォルトが頻繁に発生している。
 このことは、今のレバレッジの崩壊や厳格な監督政策の下、大半の会社では資金調達が難しく、実体経済への資金供給が構造的に不足している。
 (4)現在、株式市場の主な問題は、依然、過大なレバレッジド・ファンド(「レバレッジの高いファンド、即ちたくさん借り入れをしたファンドが中国企業の株式を買っている」金融アナリスト・小田切尚登氏)であり、株式市場における同ファンドの規模は3年前とほぼ同じである。
 同市場の下向き調整と政策厳格化の状況下では、レバレッジド・ファンドの誤った処理によって、システム・リスクを引き起こす可能性がある。
 我々の推計によれば、今の株式市場での様々なタイプのレバレッジ規模(二重計算を除く)は、およそ5兆元(約85兆円)である。それは、2015年6月、中国株の大暴落、いわゆる「チャイナショック」以前のレバレッジド・ファンドの規模と基本的に同じである。(以下、省略)
 一方、6月26日(「国家金融と発展実験室(研究所)」が既述の文章を発表した当日)、中国の金融学者、賀江兵は、「(仮訳)中国は既に到来した『ミンスキー・モーメント』を制御する力が落ちている」という一文を「ラジオ・フリー・アジア」(RFA)に発表した。
 賀江兵は、かつて『華夏時報』の金融主任を務め、『金融の真相』や『経済の幻想』という著作がある。
 タイトル中の「ミンスキー・モーメント」とは、投資家が保有するあまり投機的でないポジションさえも債務支払のために売却する必要に迫られ、マーケットで価格下落スパイラルと深刻な貨幣需要が生じる瞬間をいう(『iFinance』)。
 いみじくも同時期に、中国国内の学者・研究者が、同国の金融恐慌に対し警鐘を鳴らしている事実は決して看過できないだろう。