澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -311-
デフォルト覚悟で積極財政へ舵を切った中国

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2018年)7月31日、中国共産党は景気を刺激するため、「積極財政政策」を打ち出した。北京政府自ら、ついに「景気が悪い」事を認めたのである。
 ここ数年に亘り、日本における一部メディア(シンクタンクを含めて)は、あたかも中国経済が順調に発展しているかのような報道を行ってきた。
 近年の消費、投資、貿易、エネルギー消費量(=発電量)、貨物輸送量等の数字を見れば、明らかに中国の景気は良くなかったのである。
 それにも拘らず、一部メディアは、中国当局が発表する“怪しい”GDPの数字を一切検証もしないで垂れ流してきた。
 思い起こせば、2008年の「リーマン・ショック」の際、その頃、まだ世界第3位の経済体だった中国が、4兆元(当時のレートで約60兆円)と言われる財政出動を行い、世界を不況から救ったと賞賛された(皮肉な事に、そのツケ-巨額の財政赤字と過剰生産設備-が今の中国を苦しめている)。
 常識的に考えると、現在、世界第2の経済大国、中国(おそらく米国のGDPの半分ないしは6割程度)が6%以上で経済成長していれば、世界経済(特に東アジア)はそれに引っ張られ、景気が良くなっても不思議ではないだろう。仮に、我が国が年間6%以上の経済成長を遂げたら、間違いなく世界経済の牽引役となるに違いない。
 近年、豪州・台湾・韓国(世界で最も中国への輸出依存率の高い3国)の景気は、果たして良かったのか。無論、答えはノーである。中国の成長率が本当に6%以上あれば、3国は好況だったはずではないか。台湾の場合、馬英九政権時代、一時、マイナス成長を記録した。
 習近平政権が漸く“自白”したように、「景気は悪い」のである。
 中国経済を牽引する3つのエンジン(消費・投資・貿易)で、消費と投資がここ10年近く、ずっと“右肩下がり”だった。貿易は、「リーマン・ショック」後の2010年~14年まで好調だったが、2015年・16年、前年同月比で殆どマイナスに推移している。
 ただ、2017年から現時点(2018年上半期)まで復調基調にあった。しかし、貿易に復調の兆しが見えてきた矢先、「米中貿易戦争」が勃発している。
 北京政府としては、貿易による成長が難しいならば、別な道を選択せざるを得ない。それが、「切札」の積極財政への転換である。
 けれども、中央政府の巨額の財政赤字が激増し、近い将来、国家のデフォルトが現実味を帯びてきた。
 我々がかねてから指摘している通り、“中国寄り”の国際通貨基金(IMF)のような機関でさえ、中国全体の負債は(個人負債<GDPの約50%>を除き)GDPの250%と指摘している。(地方政府・国有企業の負債を含め)中央政府の負債はGDPの300%という別の試算もある。
 他にも喫緊の問題があるだろう。政府から赤字補填を受け続けている「ゾンビ企業」(正確な数は不明。しばしば約2000社と言われる)の存在である。もし、習近平政権が「ゾンビ企業」を潰せば、失業者が街に溢れかえるだろう。けれども、このまま中央政府が「ゾンビ企業」の赤字を補填し続ける事もできない。
 今後、ごく短期的に、北京は人民元を刷り続ける事で、何とか現状を保つ事ができるかもしれない。しかし、元安が続き、国内の物価は上昇し続けるだろう。中国はデフォルトの危機がもはや避けられない状況に陥ったのである。
 ところで、別の視点から見ても、中国経済の実態が垣間見える。
 最近、米上下院で「台湾旅行法」が通過した。これは、米台の要職にある人物がお互い相手国へ自由に訪問できるという法律である。
 この「台湾旅行法」が米議会を通過した時、議員らが誰1人として、法案成立に反対しなかった。はじめ、我々は米上下議員の台湾に対する温情及び台湾の戦略的価値が増大したからではないかと考えた。
 しかし、必ずしもそうとばかりは言えない。いわゆる「パンダハッガー」と称される「親中派」議員が殆ど“絶滅”したからだった。
 要するに、中国共産党はカネ(実弾)に困って、米議会へのロビイング活動を止めたのである。北京にカネがあれば、ある程度、米議員を買収できたはずだろう。
 その代わり、北京は台湾の「国際生存空間」を狭めようとして、躍起になっている。たぶん台湾と国交のある国を「買収」した方が“効率的”なのかもしれない。