澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -313-
北京はP2Pで庶民から金を巻き上げたか?

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 現在、中国共産党政権には、財政破綻の危機が迫っている。中央政府の財政赤字は、GDPの250~300%にのぼる。
 それにも拘らず、今年(2018年)7月31日、習近平政権は、「積極財政」政策を打ち出した。景気が悪いからである。しかし、目下、北京政府は“金欠”状態に陥っている。一体、どこからカネを捻出するのだろうか。
 周知の如く、習政権は「一帯一路」で関係諸国へ巨額投資している。カネは、投資先から回収すれば良いはずである。しかし、実際、関係国の借款返済が滞り、スムーズに中国へカネが戻って来ていない。
 例えば、スリランカのハンバントタ港のように、北京が運営権を握っても、すぐにカネは中国へは戻らない。他方、パキスタンのグワダル軍港(「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」)やモルディブへも多額の投資をしている(以上は、中国共産党のインドに対する「真珠の首飾り」戦略の一環に違いない)。
 これらは、北京の台所事情を苦しくしている要因である。
 では、中国政府にカネを産み出す何か良いアイデアがあるのか。
 この度、習政権は財政出動のためか、P2P(peer to peer lending)プラットフォームを利用して、庶民から小金を巻き上げたのではないかという疑念を持たれている。
 かつて、中国には、銀行(特に国有銀行)がベンチャー企業へカネを貸す文化がなかった。だが、インターネットの発達で、起業家がネットを通じてカネを調達する制度ができた。それがP2Pプラットフォーム(以下、P2P)である。
 P2Pでは、資料提供、資金集め、契約等は、全部ネット上で行われる。基本的に、小口融資の新金融システムである。借り手はP2Pからカネを借りて起業する。
 P2Pには、およそ5000万人が登録している。1.3兆元(=1920億米ドル。約21兆1200億円)市場である。一般の出資者は、平均数万元をP2Pへ投資している。金利は様々だが、普通、年率7~9%程度である。ただ、一部は、最初の年の6ヶ月間で、平均10.2%という高利になっている。
 P2P全盛期には、5000社あまりも存在した。だが、今年上半期だけでも700社以上が倒産している。一説には、P2P の70%以上が経営破綻し、残るのは200社程度ではないかという試算もある。
 中国のシャドー・バンキング(ノンバンク)市場は、全体で10兆米ドル(約1100兆円)と言われる。その中でもP2Pは最もリスクが高く、以前は、殆んど規制されていなかった。
 このP2Pに大手企業が参入し、多くの出資者を募り、その資金を不動産のデベロッパー等へ貸し付けるようになった。
 仮に、政府が主導して投資会社を設立し、P2Pで出資者を募り、その後、その会社を倒産させる。そうすれば、北京は、“濡れ手で粟”、数兆円以上の丸儲けとなるだろう。
 実は、P2P倒産後のカネの行方が、ようとして分からない。そのため、出資者は利子どころか、出資金さえ返却されないという事態に陥った。
 今年8月6日、P2Pの会社が倒産したので、被害者らが、北京の中国銀行保険監督管理委員会へ救済を求めて上京した。
 ところが、中国当局は1000人以上の警察官を出動させ、彼らを100台以上のバスに無理やり乗せ、治安の維持を図った。習政権は、陳情者の声を完全に封殺したのである。
 被害者らは、当日、午前8時半から、銀行保険監督管理委員会の前で、抗議集会を開こうとした。だが、警察に阻止されている(その後、抗議集会が開かれたとも伝えられている)。
 上海高速鉄道駅では、P2P被害者らが、高速鉄道で北京へ陳情に行こうとしたが、彼らは逮捕された。そのため、駅構内は一時混乱した。
 中国では、このような出資者泣かせの事件がしばしば起こる。
 2015年、「e租宝」(金易融<北京>ネット科学技術有限公司)破綻事件では、騙された人が90万人以上、被害総額が500億元(約8500億円)にのぼった。
 また、同年、雲南地方政府の「泛亜有色金属交易所」(本部は昆明)倒産事件では、会員が22万人、融資金額が430億元(約7310億円)にのぼっている。
 今回、政府がP2Pを利用してカネをせしめているようならば、そのツケは必ずや中国共産党に跳ね返ってくるだろう。