「安倍政治に『労組』戦後政治の終焉を見る」
―立憲民主党の伸び悩み必定―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 朝日新聞には非難する口調で「安倍一強」という言葉が連日のように出てくる。安倍内閣の支持率はこの2~3年、35%と50%の間を行ったり来たりしている。国政選挙は衆参各2回、計4回やっているが、いずれも自民党が勝っている。続けて4回勝った首相は初めてではないか。まさに「安倍一強」現象だが、勝ち続けて悪いのか。
 第一次安倍内閣から観察すると、教育基本法の改正、国民投票法の制定、防衛庁の省昇格に始まって第二次以降は特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、安全保障関連法の成立と日本の防衛態勢は一新された。周囲の国際状況も一変した。もし何もしなければ、トランプ氏に愛想をつかされていたろう。
 国会では二期にわたってモリ・カケ問題が取り上げられ、朝日新聞だけ見ていると、天下の大事はモリ・カケだけだと錯覚しかねない。政界のスキャンダルには“黒いカネ”が不可欠で、例えば「国有地を安く払い下げてやった代わりに、政治家が業者からカネを貰った」というような事実が判明しなければスキャンダルとは言わない。朝日の言い分だと、安倍一強のせいで、悪事が隠蔽されているが如くだ。立憲民主党などは挙党態勢でモリ・カケに拘った。ところが党勢は当初17%程度あったのに減少する一方だ。これは党の進んでいる方向が民意に沿っていない証拠ではないか。
 価値が多様化し、利害が錯綜する状態の時、政権から見放された層は自分たちを代弁する党を立ち上げる。冷戦中のイタリアでは組合が政党に要求を持ち込んで40もの政党ができた。日本では民間組合(同盟)が民社党、官公労(総評)が社会党、共産党と結びついた。その後、同盟と総評が合併し、連合を名乗った。連合の要求は野党を通じて政治の場に展開されるはずだった。ところが安倍首相は直接、連合の親分達と会談し、妥協するところは妥協した。政権と連合との直接交渉によって、経団連もカヤの外に置かれた。組合運動も不要となった。
 連合の代表は多数派である民間組合の出身者だから、首相と組合代表は互いに“常識”で話せる。首相の側が「給料を3%上げてくれ」などと要求するのだから、経営者の団体である経団連も連合も不必要だ。組合内には共産党より過激だと言われる革マルや官公労が含まれるが、もはや民間組合側は「過激派が邪魔だ」「総評との合併は間違いだった」という後悔さえ聞かれる。立憲民主党の支持母体は革マルや官公労が多いから、先細りか、伸び悩みの運命だ。この7月、革マル派の牙城と言われたJR東日本の最大労組(JR東労組)で組合員の7割に当たる3.3万人が脱退した。組合を抱えた戦後政治の形は終わろうとしているのではないか。中曽根康弘氏は国鉄の分割・民営化によって社会党を終わらせた。安倍氏は組合との直接対話によって古い政治を終わらせた。安倍一強時代だ。
(平成30年8月22日付静岡新聞『論壇』より転載)