澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -318-
財政難で民間企業までも“搾取”する習政権

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 最近、アリババ集団の会長、馬雲(ジャック・マー)が来年(2019年)9月をもって、引退を表明した。その後は、ダニエル・チャン最高経営責任者(CEO)が会長職を引き継ぐ予定である。なぜ馬雲が身を引かなければならないのか。様々な憶測が飛び交っている。
 中国では普通、民間企業は、共産党と結びつかなければ、大きく成長する事は難しい(いわゆる「官商結託」。馬雲は「上海閥」=江沢民系と関係が深いと言われる)。
 アリババの株価は、2017年から18年にかけて右肩上がりで好調だった。今年(2018年)6月には、一時、208米ドル(約2万2880円)まで上昇した。だが、(9月13日現在)同社の株価は165.1米ドル(約1万8161円)まで値を下げている。
  もしかして、馬雲は「明天系」の蕭建華(中国公安によって、香港のフォーシーズンホテルから大陸へ拉致された)や安邦保険の呉小暉(鄧小平の孫娘の夫)と同じ運命を辿る(財産を中国共産党へ上納)可能性を察知したのかもしれない。また、今年7月、海航集団(HNAグループ)の王健董事長がフランスで客死(不審死)している。馬雲は、彼らのような中国民間トップの悲哀を感じているのではないだろうか。
 さて、中国共産党が民間企業を併呑する場合、3つの手法を採る(1950年代、政府が民営企業を国有化した際の方法という)。
 第1は、司法を使って、正面から企業家を撃つ方法である。検察と裁判所が一緒になって、彼らを犯罪者に仕立て上げる。場合によっては、経営者を死刑にしたり、獄死させたりして、その企業を没収する。
 第2は、行政的に、陰から矢を放つ方法である。当局が、民間企業の税務、衛生、消防、環境保護等を問題視して、同社が正常なビジネスをできないようにする。時には、同社を倒産させる。
 第3は、「ソフトナイフ」と呼ばれる方法である。民間企業に、(労働者に対する)過度な社会保障費を課す。あるいは、国有企業には減税を行う一方、民間企業には課税する。
 一例を挙げてみよう。かつて湖南省に曾成傑という民間企業経営者がいた。2005年「中国企業改革十大傑出人物」に選ばれている。
 ところが、2008年、曾成傑は逮捕され、2010年に1審、翌11年に2審の判決を受けた。その後、曾成傑に、突然“出資法違反”の罪状が加わり、2013年、死刑が執行されたのである。
 これは、中国共産党お得意の第1の手法(司法で正面から撃つ)だろう。
 当時、曾成傑の会社(総資産23.8億元<約380.8億円>)は、湖南省財政庁に所属する企業にわずか3.3億元(約52.8億円)で売却されたのである。湖南省政府は、約328億円を“濡れ手に泡”で手に入れたことになる。
 『2017企業家刑事リスク分析報告』によれば、同年、犯罪が確定した中国の企業家、2292人中、国有企業家は328人(約14%)で、民間企業家は1964人(約86%)だった。後者の数が前者のおよそ6倍で、後者は中国共産党に常時、狙われている向きがある。
 一般に、民間企業は国有企業と違って、利益率が高い。また、銀行からの借入金もしっかり返済する。だが、他方、国有企業は利益率が低い上、銀行への借入金返済がしばしば滞る。原則、倒産しないからである。
 実は、民間企業こそ、「金の卵を産む鶏」なのである。それにも拘らず、習近平政権は、民間企業を“搾取”しているのではないか。
 ここ3年間、北京政府は、「混合所有制」による国有企業改革を謳ってきた。
 収益の上がらない国有企業(最悪なのは「ゾンビ企業」)と儲かっている民間企業を合併させ、国有企業を存続させる方針を採っている。
 国有企業を倒産させれば、多数の労働者が失業する。また、北京政府としても、党や軍の幹部と深い関係の国有企業は潰しにくいのかもしれない。
 ただ、このようなやり方では、国有企業が民間企業の足を引っ張り、結局、民間企業の活力が失われるに違いない。社会全体にとって、マイナスだろう。
 近頃、習近平政権は、P2P(ネットを通じて出資・借入するファンド会社)を通じて、庶民のカネを巻き上げているふしがある。
 ひょっとして、北京政府は民間企業を“搾取”し、庶民からカネを“詐取”して、政権維持を図っているのではないだろうか。