「安倍晋三氏3選果たす」
―外交、安全保障政策への安心感が長期政権を可能にする―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 自民党総裁選で、安倍晋三氏が予想通り3選を果たした。任期いっぱいを務めると第一次安倍内閣と合わせて10年在職することになる。まさに未曾有の長期政権である。投票結果をあれこれ分析して地方票が少ないとか、議員票が前回より増えたなどと評価するのは無意味だ。議員も国民も何故安倍氏を三選したかを分析し、それを党の主柱として守っていくことこそが重要ではないのか。
 選挙を前にして斉藤健農水相が、石破派の支援集会で安倍首相を支持する国会議員から「内閣にいるんだろう。石破を応援するなら辞表を書いてからやれ」と“圧力”を受けたという。斉藤氏は恫喝とか圧力と受け取っているようだが、現職の閣僚が首相を支持できない点があるなら閣議とか、サシの会談で言うべきだった。それでも反対というのなら、閣僚を辞任してから、反対票を投ずるべきだ。かつて閣僚を辞任して総裁選に自らが立候補した人がいたが、実に爽やかに感じた。身内の選挙だから、恨みつらみを生まない配慮をしたものである。
 石破茂氏は反安倍の理由の一つに、モリ・カケ問題を取り上げ、「正直にやれ」と言っていた。これは野党の攻め方であって、身内の争いで野党の立場に立つのは党人でもないし紳士でもない。
 政党が何年かに一度、総裁選をやるのは大きな問題で党内の課題がどこにあるのかを探る狙いがある。小泉純一郎元首相などは郵貯のやり方一つで解散を打った。どうしても民営化反対という人の選挙区には“刺客”を立てて何十人かの人を追い払った。
 今回その子息の小泉進次郎氏は選挙締め切り前に「石破さんに入れた」と公にしたが、その理由は「党内に反対の声や色々多様な意見を言う人が必要だ」というものだった。これは父親の「郵政民営化反対なら刺客を立てる」という“単細胞”方式は好ましくないという深い意味があるのか。
 安倍氏の歩んできた道は、内政では教育の改革に始まって防衛力の強化路線である。外交では日米安保条約を中心にして、対中“対等外交”を進めてきた。いまトランプ米大統領が興した米中貿易戦争は、中国に不当に稼がれ、その金で軍事大国を目指してきた中国を叩き潰すという激しさがある。安倍外交も中国の膨張を一切許さないために、「開かれたインド太平洋戦略」を掲げた。既に豪、印とは戦略的に提携し、これに仏、英も加担している。日本では対中外交と言えば、中国の主席と会うのが目的のようになっているが、その前に必要なのは、中国に向かってどのような態度をとるのか、である。安倍氏に9年間も首相を託そうというのは、安倍氏の外交手腕に対する安心感だろう。安倍外交こそが議員票を8割集めた要因だろう。
 欧州でケタ違いの親中派は独である。その独が今、中国の“一帯一路”政策を「新たなる侵略主義」と定義している。
(平成30年9月26日付静岡新聞『論壇』より転載)