澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -321-
習政権を脅かす「アフリカ豚コレラ」

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 現在、中国では、「アフリカ豚コレラ」(以下、ASF)のアウトブレイクが認められている。だが、依然、北京政府は、ASFの拡大を止める事ができない。
 ASFは普通の「豚コレラ」と違って感染力が強く、致死率が100%に近い。そして、未だに特効薬がない。従って、豚がASFに感染したら、必ず殺処分となる。
 既に、中国当局は、少なくとも、ASFに感染した4万頭の豚を殺処分にした(桁数が違うという指摘もある)。
 但し、今のところ、人間には感染しないと考えられている。そのためか、日本のマスメディアは、中国のASFに対し、殆んど関心を示していない。
 今年(2018年)8月初旬、中国のASFは遼寧省瀋陽市で発生した。その後、瞬く間に、全国でASFの20以上の症例が確認されている。
 しかし、中国当局は、最初にASFが発症した遼寧省瀋陽市に対し、ASFの拡大の恐れがなくなったとして、10月1日から規制解除の準備を始めていたのである。
 ところが、9月末、突如、同省南部の営口市で5症例のASFが発生した。あたかも、北京の規制解除予告をあざ笑うかのようだった。
 実は、中国は世界最大の豚肉生産国であり、同時に世界最大の豚肉消費国でもある。中国人は、豚肉を1番好んで食べる(肉類全体消費の約3分の2)。そのため、豚肉は1280億米ドル(約14兆4640億円)規模の市場となっている。
 その豚肉が減産となれば、当然、豚肉の値段が上がるだろう。
 周知の通り、現在、中国は「米中貿易戦争」を戦っている。どうやら、11月には、中国側が先に“白旗”を揚げる運びだという(もともと、弾の少ない中国が「米中貿易戦争」に勝てるはずはなかった)。
 もし、米中の関係が良好ならば、北京政府は割安な米国産豚肉を輸入すれば事が済む。だが、「米中貿易戦争」の最中、習政権は米国産の豚肉に対し60%以上の高関税をかけ、米国産品が国内に入らないようにした。
 そのため、中国共産党は、仕方なしに、ロシアから割高な豚肉を輸入せざるを得ない。結局、同党は自らの首を自分で締めているのである。
 ところで、何故、ASFが習近平政権にとって脅威なのか。「たかが豚肉」と侮ってはならない。
 目下、経済的に崖っぷちに追い込まれている習近平政権は、今後、何が引き金となって、転落するのか予想がつかないからである。もしかすると、豚肉の供給不足が消費者物価全体を押し上げ、それが政権崩壊の引金となる可能性も排除できない。
 我々が繰り返し主張しているように、ここ数年、中国経済が芳しくない。
 仮に、景気が良ければ、今年7月31日、中国共産党が敢えて景気刺激策を打ち出すはずはない。
 また、10月1日から個人所得税減税(減税規模はおよそ年3200億元<約5兆1200億円>)に乗り出す必要もない。因みに、中国共産党がこの減税は「米中貿易戦争」に備えてというのは、単なる“口実”に過ぎないだろう。
 ところで、9月17日、我が国の防衛省が、海上自衛隊の潜水艦を南シナ海に派遣し、同月13日に訓練を実施したと発表した。
 これまでならば、中国共産党は日本に対し、“自分の庭”を荒らすなとばかり、猛抗議を行うはずである。ところが、今回、同党は殆ど反発していない。
 何故か。ひとえに中国が経済的苦境に陥っているからである。中国共産党は、我が国にすら、すがろうとして、必死なのである。
 では、何故中国の景気が一向に回復しないのか。主因は2つあるだろう。
 第1は、よく知られているように、習近平主席が歴代中国王朝の皇帝の如く、「一帯一路」等でカネを世界中にバラまいているからである。昔、中国の天子は、はるばる同国までやって来た“蛮人”に対し、献上された土産の何倍もの品物を下賜していたという。多分、習主席は同じ皇帝の気分なのだろう。
 第2に、習主席が、未だに社会主義・共産主義を信奉しているからである。
 実際、民間企業は中国全体のGDPの60%も稼ぐ。ところが、今の習近平政権は「国進民退」(国有企業が進出し、民間企業が後退する)政策を推し進めている。
 同時に、習政権は「混合所有制」という手法で、活力のある民間企業を抑圧し、単に生き長らえているだけの国有企業を支えようとしている。
 これは一体、何を意味するのか。鄧小平の「改革・開放」を否定し、社会主義・共産主義へ回帰する試みだろう。つまり習政権は、歴史の歯車を逆転させようとしているのである。これでは、中国経済が奈落の底へ落ちて行くのは必然ではないか。