澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -325-
また暴露された習主席一族の不正蓄財疑惑

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2018年)10月10日、『蘋果日報』は、習近平主席一族が香港での巨額不動産資産保有(約6億4千万香港ドル<約92億円>)を暴露した。習主席の実姉、斉橋橋の夫、鄧家貴、それに姪の張燕南3人が所有しているという。
 確かに、習近平主席や彭麗媛夫人、娘の習明沢は直接、ビジネスには関わっていない。だが、国家トップの実姉や義兄が香港で活発にビジネスを行っているという事自体、党内外から不信を招くだろう。
 習ファミリーの資産暴露は、今始まった事ではない。これまでに再三行われている。
 最初は、2012年、習近平主席が、中国共産党総書記になる直前だった。『SAPIO』(2012年8月1・8日号)で、ジャーナリストの相馬勝氏が、習近平ファミリーの総資産は少なくとも420億円を下らないのではないか、と指摘している。
 2度目は2014年、米『ニューヨークタイムズ』紙(6月17日付)が、習主席の実姉(斉橋橋)の夫、鄧家貴が香港で「明天系」(投資会社)の蕭建華と一緒に会社を創立したと報じている(因みに、蕭建華は、現在、中国大陸で取り調べられているという。死亡説あり)。
 3度目は、2016年4月『パナマ文書』が流出した時で、習ファミリーの名前が登場している。英領バージン諸島(「タックスヘイブン」=租税回避地)の法人2社を保有していた習主席の義兄、鄧家貴が、更に同諸島の別の法人1社を保有していると報じられた。
 4度目の今回、習ファミリーに関する香港不動産資産も、これまでと殆んど同じなので、何ら新味はない。ただ、中国国内では「范冰冰(ファン・ビンビン)高額脱税事件」直後なので、時期が悪い(ひょっとすると「反習近平派」に付け込まれる恐れがある)。
 我々がこれまで度々主張してきたように、習近平政権の異様さは、「反腐敗運動」を推進してきた習国家主席と王岐山国家副主席(前中央紀律検査委員会書記)が限りなくブラックな点にあるだろう。
 習主席の場合、上記の不正蓄財疑惑だけではない。香港・銅羅湾書店が主席の女性問題に関する暴露本を出版しようとした際、中国公安が書店の株主・店主・店員らを全員捕まえて、中国大陸へ連行している。結局、未だ、その暴露本は上梓できていない。
 他方、王副主席の場合、愛人が数人いて(その中の1人が范冰冰か?)隠し子が何人もいると言われる。
 阿片戦争時の清廉な林則徐とは異なり、クリーンとは程遠い習・王コンビが、自分達の事は棚に上げて、自らの派閥以外の党・政府・軍幹部らを徹底して逮捕し、裁判にかけてきた。
 一体、何人の中国高官及び「官商癒着」した企業家が自殺に追い込まれてきたのか。或いは、当局に殺害されてきたのだろうか。
 さて、中国では、中国国民党譲りの「党国体制」(国家よりも党が上に位置し、党が国家を指導する)が特徴である。
 そして、今年、習近平政権は、1997年に成立した「国家行政監察法」を廃し、新しく「国家監察法」を制定して「国家監察委員会」を創立した。
 これまでは、王岐山がトップの中央紀律検査委員会が、(法律ではなく)中国共産党の党内規則で、腐敗状況を調査していた。具体的には、贈収賄や愛人の有無等である。
 乱暴な言い方かもしれないが、中国高官で腐敗していない人は、まずいない。部下から賄賂を受け取り、それを上司に贈らなければ、出世できないからである。
 一方、今度、なぜ独立性の高い「国家監察委員会」が創設されたのか(以前は「国務院監察機関」という名称だった)。
 その理由が、振るっていよう。王岐山が、党最高幹部である政治局常務委員に残留できなかったからである(表向きには、定年年齢の68歳を超えていたためである。だが、本当は、米国逃亡中の郭文貴に集中攻撃を浴びて、それに耐えられなかったからではないか)。
 習近平政権は、中央紀律検査委員会から権力を取り上げ、それを「国家監察委員会」へ移したのである。
 王岐山の部下として働いていた楊暁渡(前中央紀律検査委員会副書記)が「国家監察委員会」のトップである。ということは、実質的に、王岐山が同委員会トップだと言う意味に間違いない。実に、分かりやすい構図ではないか。
 今まで機能していた中央紀律検査委員会と新設の「国家監察委員会」が“合同庁舎”というのも、奇妙な話だろう。
 つまり中国政府は、未だ「党政分離」が行われていない「前近代的」組織である。それでいて、中国共産党は、近い将来、「近代化」された米国を追い抜くと豪語している。噴飯ものではないか。