「ウイグル人強制収容所の洗脳教育とは」
―帰還者なし、天上なしの人権弾圧、完全監視社会の恐怖―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 中国のウイグル族など少数民族に対する弾圧は目に余るものがある。米上下両院の共和・民主両党は「空前の弾圧」を行っていると非難し、対中経済制裁を行う法案をトランプ政権に提示した。
 新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)の人口は約2300万人(2014年)で、ウイグル人は約半分の1130万人だという。このうち強制収容所に110万人が収監されているほか、約220万人は再教育(洗脳教育)されているという。全ウイグル人の約30%の人が再教育されていることになる。報道によると2017年春以来、強制収容所から帰還した人はいないという。
 ウイグル人はスンニ派のイスラム教徒で、中国が用心しているのは①テロリズム ②分離主義 ③宗教的過激主義の三種類だと言っているが、ウイグル側の言い分は違う。ウイグル語の使用制限、宗教の自由への制限まで行われているほか、継続的に新疆ウイグル自治区へ漢民族を移民として送り込んでくる。一方で女性を集団でウイグルの外部に送り出しているという。少年期の子供が強制収容所で中国語を習得するとその分だけウイグル語が抜けて、孫と祖父母の会話が成り立たなくなるという。かねて強制収容所のやり方を国連や人権団体が非難していたが、ウイグル自治区の人民代表大会常務委員会は条例に「自治体は思想教育のための教育矯正施設を設立できる」旨を盛り込んで違法性をなしとした。
 1980年代にはウイグル族の中で民族自治の拡大を求める動きが見られたが、当局による人権弾圧は強まる一方だ。驚くのはイスラム教徒がメッカへの巡礼に出かける時には、身体に追跡装置が装着されるという。ウイグル自治区の住民は顔、目、指紋、DNA、声紋などあらゆる生体認識を駆使した「完全監視社会」の実験場と化していると欧米メディアや人権団体は指摘している。
 最近読んだ新聞記事によると、北京の劇場で観劇中に手配の泥棒が2、3人捕まったそうである。舞台の側からカメラで観客の顔を認識して手配の人物を特定したらしい。
 習近平政権は犯罪防止に懸命になっているが、党大会の報告では、摘発、逮捕された公務員は5年で15万人になったという。年に3万人の公務員を捕まえるためには、それこそ全員を泥棒と疑ってかかる対応が必要となる。生体認識や監視カメラを最大限利用しても中国の泥棒を全部捕まえるのは困難だ。
 公正な社会を建設しようとして、規格や規制、宗教、言語をも統制し全体主義の見本のような社会をこしらえても無理だ。目下の中国はITの世界で一流になるために“製造2025”の目標を掲げ、周囲も一帯一路で発展させる。2049年には世界一の軍事強国を目指す。そのためにこそ習主席の任期を外して永久政権にしたのだろう。ウイグル政策もこの一体化の線上にあるようだが、文明は差異の同居から生まれる。
(平成30年10月24日に付静岡新聞『論壇』より転載)