澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -329-
2018年台湾統一地方選挙直前の情勢

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2018年)11月24日(土)、台湾では統一地方選挙が行われる。2020年1月、台湾総統選挙の“前哨戦”として内外の耳目を集めている。
 市長選は、市(県)議会議員選挙等と異なり、市長を1人だけ選ぶので、総統選と同じ選出方法となる。特に、台湾有権者の約70%を占める6直轄市長選挙の重要性は強調しても、し過ぎる事はない(大半の有権者は、同選挙と総統選で、似た投票行動を取る<同一の政党に投票する>傾向にある)。
 この6市長選挙で、与党・民進党が過半数の4勝以上制すのか、それとも、野党・国民党が4勝以上制すのか注目される(両者が3勝3敗の場合、総統選は微妙な結果になるだろう)。
 仮に、民進党が4勝すれば、蔡英文総統再選、或いは頼清徳行政院長(首相)の新総統誕生が近づく。反対に、国民党が4勝すると、再び国民党が政権に返り咲く見込みとなる。
 各種世論調査から、11月の6直轄市選挙を占ってみたい。
 第1に、台北市は、現職の柯文哲市長(無所属)が先頭を走っている。それを国民党の丁守中、民進党の姚文智が追う展開である。ただ、柯文哲の再選はほぼ間違いないのではないか。
 第2に、新北市(かつての台北県)では、国民党の侯友宜(元內政部警政署長)が一歩リードし、民進党の蘇貞昌(元行政院長)が追っている。蘇貞昌は、苦しい戦いを強いられているのではないか。
 第3に、桃園市は、陳学聖(国民党)が現市長の鄭文燦(民進党)に大きく水をあけられている。鄭文燦が圧勝する勢いである。
 第4に、台中市では、現職の林佳龍(民進党)がわずかに盧秀燕(国民党)をリードしている。だが、林佳龍の逃げ切りが濃厚な情勢ではないか。
 第5に、台南市(民進党の地盤)では、民進党の黃偉哲候補が圧倒的にリードし、国民党の高思博候補らの追随を許さない。黃偉哲の勝利は間違いないだろう。
 第6に、高雄市では、民進党の陳其邁(かつて高雄代理市長を務める)が国民党の韓國瑜をリードしている。陳其邁が逃げ切るかもしれない。
 以上をまとめると、現時点で、与党・民進党は、前回(2014年)の統一地方選挙結果と同数(4勝)の当選が期待される。
 もし民進党が6直轄市中、4人の市長当選者を出したとしよう。これで、次期総統選挙(2020年)で、民進党の勝利は安泰かと言えば、決してそうではない。
 実は、前回(2016年)の総統選挙とは全く事情が異なるのである。その時、民進党の蔡英文、国民党の朱立倫、親民党の宋楚瑜の3候補が出馬した。
 後者2人は、国民党系(宋楚瑜が多少、朱立倫の票を奪った)だったが、蔡英文候補としては、比較的楽な戦いだった。
 ところが、次期総統選挙で、よしんば柯文哲(元来、民進党に近かったが、最近、中国共産党に近づき「親中派」へ鞍替えした模様)が市長職を投げ打って立候補したら、柯に民進党票がかなり侵食されるだろう。
 民進党の票(蔡英文票或いは頼清徳票)が、無所属の柯文哲に大量に流れる恐れがある。そうなれば、国民党候補(朱立倫か?)が“漁夫の利”を得て、当選する公算が大きいだろう。つまり、2000年の総統選挙と“逆パターン”が起こる可能性を排除できない。
 当時、もしも国民党の連戦と宋楚瑜が組んで出馬していれば、民進党の陳水扁は、彼らには絶対勝てなかっただろう。その頃、まだ国民党の票が約6割、民進党のそれは約4割程度しかなかったからである。
 ところが、李登輝総統(当時)が国民党と連戦と宋楚瑜のペア成立に反対した。そこで、宋楚瑜は無所属で出馬せざるを得なかったのである。そのため、国民党の票が完全に二分された。
 選挙当日、最終的に、陳水扁が宋楚瑜に競り勝った(連戦はすぐに脱落)。だが、勝利した陳水扁の得票率はわずか39.3%だったのである。
 最後に、他の次期県市長選挙を一瞥しておこう。
 おそらく民進党が5勝(基隆市の林右昌、新竹市の林智堅、雲林県の李進勇、嘉義県の翁章梁、屏東県の潘孟安)、国民党が8勝(苗栗県の徐耀昌・南投県の林明湊・花蓮県の徐榛蔚・台東県の饒慶鈴・澎湖県の頼峰偉・<福建省>金門県の楊鎮浯・連江県の劉増応)、その他が1勝(新竹県の徐欣瑩<民国党>)だと予想される。
 彰化県では魏明谷(民進党)と王恵美(国民党)が、嘉義市では黄敏恵(国民党)と涂醒哲(民進党)が激しく争い、予断を許さない状況にある。