澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -330-
不調な中国経済と「アフリカ豚コレラ」

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2018年)1月、ある著名な経済評論家が、「依然、中国経済は“好調”を維持している」主旨の記事を書いていた。今なお、その考えは変わらないのだろうか。
 2012年11月、党大会で、習近平副主席が総書記に選出された。翌年3月、習総書記が国家主席に就任し、正式に習近平政権が発足している。爾来、いつ中国経済が“好調”だったのか。以前から我々が主張しているように、投資・消費がずっと右肩下がりである。
 貿易(特に輸出)はどうか。2013年・14年は低空飛行、15年・16年に至っては、ほぼ前年比マイナス成長だった。17年から18年9末に至るまではプラス成長で“好調”に見える。
 だが、おそらく中央政府が人民元を増刷して各企業へ輸出還付金(=輸出補助金)を使って、輸出を促進している疑いがある。実際、輸出が“好調”ならば、1米ドルが元安の7元に近づくだろうか。逆に、元高の6元へと振れるのではないか。
 他方、仮に、中国の景気が良かったら、習近平政権は景気刺激策や金融緩和策を打ち出す必要はない。そのような政策を打てば、かえってインフレを招くだけだろう。
 しかし、今年7月末、習政権は国内のインフラ投資を発表した。また、翌8月末には、減税策の意向を固めている。一方、中国当局は、7月18日、中国人民銀行(中央銀行)が市中銀行への流動性促進策の方針を決めた。景気が一向に良くならないからだろう。
 翻って、そもそも北京が発表している近年のGDPの数字(6.5〜6.9%)は本当に信用できるのだろうか。
 我々は「大躍進」運動の際、大幅に“水増し”されたデータが連日『人民日報』に踊っていた事を忘れてはいない。また、最近、一部の地方政府が数字を“水増し”している事実も知っている。
 それにも拘らず、習政権の発表するGDPの数字を鵜呑みにするのはいかがなものか。
 また、先の経済評論家は、例えば、為替チャートや上海総合指数を毎日チェックしているのだろうか。チャートの動きが不自然である。
 もし、チェックしていれば、為替に関して、中国共産党が、連日、1米ドルが(心理的節目とされる)7人民元へ超えないよう、腐心しているのが手に取るように分かるはずではないか。
 当局が、為替市場に介入し、“豊富”な外貨準備を使って「ドル売り元買い」を行っていることは想像に難くない(「米中貿易戦争」も絡んで、今年3月末の6.26元から10月末現在、6.95元へと元安が進んでいる)。
 同時に、上海総合指数でも(心理的節目とされる)2500ポイント以上を維持している事が分かるだろう。
 さて、ここで話は変わる。既報の通り、今年8月、中国遼寧省で突然「アフリカ豚コレラ」が発症した。その後、10月末現在、依然、中国国内での同コレラのアウトブレイクが止まらない。既に13省、50症例以上が報告されている。
 そのため、中国では豚肉の価格が既に25%も上昇しているという。新年を迎えるに当たり、豚肉の高騰が予想される。これが、他の消費者物価を押し上げる要因となるのではないか。習政権が更に苦境に陥る公算が大きい。
 漸く11月1日、胡春華副総理が「全国アフリカ豚コレラ征圧工作テレビ電話会議」で講話を行っている。だが、それがどれほどの効果を持つのか、はなはだ疑問である。
 実は、我が国では殆んど報道されていないが、東アジアにも「アフリカ豚コレラ」の影が忍び寄っている。
 今年8月20日と26日、韓国の仁川空港と済州島空港で、中国人旅行客が持ち込んだ豚のソーセージ(腸詰め)の中から「アフリカ豚コレラ」の陽性反応が出た。
 やはり同月24日、仁川空港で、2人の韓国人が中国・沈陽市から持ち帰ったソーセージと豚肉餃子の中からも、同コレラの陽性反応が出ている。
 その後、我が国にも「アフリカ豚コレラ」が“上陸”した。10月22日、中国人旅行客が新千歳空港へ持ち込んだソーセージから「アフリカ豚コレラ」のDNAが発見された、と農林水産省が発表している。
 更に、同月31日、台湾・金門島でも、中国人旅行客が持ち込んだソーセージから「アフリカ豚コレラ」の陽性反応が出た。
 幸い、今のところ、日韓台では、直接、生きた豚に「アフリカ豚コレラ」は感染していない。だが、近い将来、3国で同コレラが蔓延したら、大騒動となるのは容易に想像できよう。