「米国の対中政策大転換」
―不当な利益で世界覇権を狙う中国を強く批判―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 米国の大学、研究所、企業などは研究の核心部分から、“中国のスパイ”と見られる人物を排除するのに懸命のようだ。中国がれっきとした共産主義国家を名乗っていた頃、米国は自然に怪しい中国人を排除してきた。しかし中国が市場経済を導入したと自称したことから、2001年にWTO(世界貿易機関)に迎え入れた。以来、中国人をスパイ視することは自然となくなってきた。が、社会主義独裁国家であることに変わりはない。中国は物凄い国家資金を使って、研究の核心部に迫ってきた。米国など“西側世界”は中国人が全く異質な人間であることを理解できない。西側世界と仲良くなじむようになれば、自由とか民主主義を理解して、自由主義社会になると考えた。米国にとって、あの大きな敵が味方になってくれればこの上ない幸せだ。
 しかしこの20年足らずの間に、中国は米国の“自由主義国”という弱点をトコトン利用して財を成した。15年には「中国製造2025」と銘打って、軍事技術面でも急速に米国のレベルに近付いてきた。トランプ氏にしてみれば、人の恩を逆手に取り、儲け放題に儲けたあげく、軍事力を増強し、世界の覇権を狙っている。トランプ氏が「不届きな奴だ」と激怒するのも当然だ。トランプ氏が「不当に稼がれた分は全部取り返す。知的財産も盗まれた分は全部取り返す」と言って、莫大な関税を請求している。
 10月24日、トランプ氏はウィスコンシン州の支持者に「中国の不公正な貿易慣行を取り締まるため、史上最大の措置をとるぞ」と叫んで万雷の拍手を浴びた。ASEANに出かけるペンス副大統領にトランプ氏は「中国は長年に亘り、米国に付け込んできた。そんな日々は終わった」と気合を入れたそうだ。
 世界が中国歓迎ムードだった頃、日本経団連の奥田碩会長(トヨタ会長)も大訪中団を結成して中国に出かけた。新幹線を商談の目玉にすれば、大商売になると奥田氏は考えた。ところがJR東海の葛西敬之社長は「中国に新幹線は売らない」と宣言し、奥田氏がカンカンに怒ったことがある。葛西氏に理由を尋ねたところ、葛西氏の言い分はこうだった。
 機関車、列車、信号セット、線路などを一式売ると、普通の国なら路線が伸びるごとに列車の追加注文が来る。しかし中国は一式買ったら、あとは全部自分で模造する。そこで事故などが発生すると「日本のせいだ」と責任を転嫁しかねない。JR東海は「日本の列車なら事故がない」ことを売りたい。
 事実、中国で列車事故が起きたが、壊れた列車は溝を掘って埋めるなどして事故原因は不明のままだ。葛西氏は中国という国、中国人の本質を見抜いて、中国向けの対応をした。一方でトヨタは最先端の研究所を中国に造るという。勿論、トップクラスの秘密が抜けるのは覚悟してのことだろう。米国の対中政策大転換によっても、中国人の良心には何の変化も及ぼさない。
(平成30年11月21日付静岡新聞『論壇』より転載)