澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -339-
ついに米国産豚肉輸入を開始した習近平政権

.

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2018年)12月1日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20首脳会議で、米中首脳会談が実現した。現在「米中貿易戦争」の最中なので、トランプ=習近平会談は世界中から注目を浴びた。
 もし、トランプ政権が再び25%の対中制裁関税を課せば、「米中貿易戦争」は更に熾烈を極めただろう。しかし、米中トップによる貿易交渉は、何とか決裂を回避できた。おそらく中国側が大幅譲歩したためではないか(米トランプ政権は、90日間、対中追加関税を延期した)。
 実は、後述するように、北京政府は、ついに“敵国”米国から豚肉を緊急輸入したのである。習近平政権は「面子」にこだわり続けたが、背に腹は代えられず、漸く白旗を揚げた。
 既報の通り、中国国内では、依然「アフリカ豚コレラ」が猖獗を極めている。「アフリカ豚コレラ」は中国20省市(1自治区を含む)へ拡大した。既に74症例が報告されている。
 この結果、生きた豚の取引価格は30%下がった。逆に、豚肉の価格は30%も上昇したのである。今後、中国人の大好きな豚肉(肉類全体の消費の約3分の2を占める)代替品として、牛肉や鶏肉が使用されるに違いない。
 さて、中国当局が60万頭の豚を殺処分したと公表しているが、この数字は本当に正しいのか。仮に、これが事実だとしよう。中国で飼育されている豚約7億頭全体からすれば、たったの0.086%である。微々たるものではないか。
 周知の如く、中国共産党の公表する数字は必ずしも信用できない。ひょっとすると、この60万頭は、1桁低いのではないか。即ち、中国国内では、既に数百万頭が殺処分されている可能性も捨て切れない。
 今年12月1日付『ラジオ・フランス・アンテルナショナル』(RFI)のコラムニスト、小山によれば、今年11月16日〜22日の1週間で、習近平政権は、米国から豚肉3348トンを緊急輸入したという。更に、中国は来年の出荷のため、9384トンの豚肉を購入している。
 事実、中国は世界最大の豚肉生産国であり、同時に世界最大の消費国(中国人の豚肉消費量は、年間平均28.5kg)である。
 昨2017年、中国は米国から17万トンの豚肉を輸入した。だが、今年「米中貿易戦争」が勃発すると、中国共産党は米国の豚肉に62%もの高関税をかけた。そのため、米国から豚肉が中国へ入らなくなった。
 そこで、北京政府は輸入先をロシアに変え、同国から24万トンの豚肉を輸入している。だが、ロシアでは、中国が同国から輸入前、既にロシアでは「アフリカ豚コレラ」が蔓延していたのである。
 仮に、そのロシアから輸入した豚肉に同ウイルスが含まれ、それが最初に発症した遼寧省へ持ち込まれているとしたら、どうだろう。皮肉にも「米中貿易戦争」によって、中国に「アフリカ豚コレラ」がもたらされた公算もある。
 一方、先月(11月)、雲南省でも「アフリカ豚コレラ」が発症した。その地域からラオス・ミャンマーとの国境までわずか200キロメートル足らずである。同ウイルスがラオス・ミャンマーへ越境する危険性もあるのではないか。
 台湾では、我が国同様、今までに3度中国人観光客によって「アフリカ豚コレラ」のウイルスが国内に持ち込まれようとした。
 今のところ、蔡英文政権は、水際で同ウイルスを防いでいる。今年12月2日、台湾当局は法律(「動物伝染病防治条例」)を改正し、もし食肉の違法持ち込みで「アフリカ豚コレラ」を国内で発症・蔓延させた場合、最高額100万台湾元(約370万円)の罰金を科することにした。
 ところで、中国国内では豚が「アフリカ豚コレラ」だけに襲われているわけではない。同国では「O型口蹄疫」も、しばしば発症している。
 同ウイルスは、偶蹄類動物の家畜伝染病で、突然40〜41℃発熱を起こす。多量のよだれを流し、口、蹄等に水疱ができる。ただ、「アフリカ豚コレラ」ほど、猛威を振るうわけではない。
 今年8月以降、中国農業農村部新聞弁公室の発表を拾ってみよう。
 8月8日の同弁公室発表では、河南省鄭州市で「O型口蹄疫」を発症した豚が見つかっている。翌9月30日(同)、広東省茂名市から重慶市に向かう豚に「O型口蹄疫」が検出された。また、雲南省曲靖市から重慶市に向かう豚からも同ウイルスが検出されている。
 11月27日(同)、新疆伊犁州伊寧県の養豚場から「O型口蹄疫」が発見された。11月29日(同)、広東省中山市でも同ウイルスが発症している。
 一挙に拡大する「アフリカ豚コレラ」、及び、じわじわと広がる「O型口蹄疫」によって、中国養豚業、ひいては同国経済が大きなダメージを受けている事は確かだろう。