澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -344-
中国の「アフリカ豚コレラ」に怯える台湾

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2018年)12月21日現在、依然、中国で蔓延する「アフリカ豚コレラ」の猛威が止まっていない。
 周知の如く、8月1日、遼寧省で発症して以来、同ウイルスが国内で拡散し続けている。そして、ついに香港の隣り、広東省珠海市にまで拡大したのである(12月19日、中国農業農村部<省>が公表)。これで、中国31省市(自治区を含む)中、23省市が“陥落”した。
 他方、以前、発症した省市でも、何故か同ウイルスの発症が繰り返される。中国当局は、主に残飯で同ウイルスが拡散していると主張する。だが、実際のところ、その理由は不明である。
 また、北京はしばしば「アフリカ豚コレラ」を制圧可能と発表する。ところが、わずか数日後に、別の省市で同ウイルスの発症が確認され、習近平政権は面子を失っている。
 実は、「アフリカ豚コレラ」のウイルスは、冷凍された豚肉には、1000日間、冷蔵された豚肉には、100日間もしぶとく生き続ける。もし、人が同ウイルスの入った豚肉を食べても無害だが、体外に排泄された後、ウイルスは11日間生きているという。
 さて、台湾の蔡英文政権は、目下、中国発の「アフリカ豚コレラ」に戦々恐々としている。特に、金門島は、中国福建省廈門市の目と鼻の先に位置し、中台間の往来が激しい。
 仮に台湾で「アフリカ豚コレラ」が蔓延した場合、被害総額がおよそ2000億台湾元(約7200億円)にのぼるという試算もある。そのため、蔡政権は水際で食い止めようとして躍起になっている。そして、テレビや新聞等で一生懸命、警告を発している。
 それにも拘らず、一般の台湾人や訪台中国人旅行客が、中国大陸から「アフリカ豚コレラ」ウイルス遺伝子入りソーセージ等を持ち込む例が後を絶たない。
 12月17日、行政院大陸委員会(対中国政策担当)、陳明通主任は立法院で、中国で蔓延している「アフリカ豚コレラ」の発症状況を説明し、台湾はしっかり防疫工作をしなければならないと表明した。
 早速、台湾政府は条例を改正し、12月18日から、同ウイルスを台湾に持ち込んだ人の、初回最低罰金額を20万元(約72万円)へ引き上げた(以前は5万台湾元<約18万円>)。
 更に、同ウイルスを二度台湾へ持ち込んだ人には、最高額100万台湾元(約720万円)という高額な罰金を科すことに決めたのである。
 また、同日、蔡英文総統は、北京政府に対し、「アフリカ豚コレラ」の状況を包み隠さず、公表するよう呼びかけた。だが、中国共産党は、普段から台北政権を地方政府扱いしている。そのせいか、今のところ、習近平政権は、蔡総統の呼びかけには、殆んど反応していない(今後も、無視し続ける公算が大きい)。
 実際、問題は、我が国にあるのではないか。
 今のところ、(北海道の新千歳空港、羽田空港、成田空港の3ヵ所で)中国人旅行客が持ち込んだ「アフリカ豚コレラ」ウイルスの遺伝子入りソーセージ・餃子等を水際で防いでいる。
 また、ネットでは、日本政府や地方自治体が盛んに同ウイルスに関する情報を発している。政府や地方自治体の対応は適切なのだが、何故か日本のマスメディアは、「アフリカ豚コレラ」について、殆んど報道しない。
 台湾が、官民を挙げて、「アフリカ豚コレラ」の島内蔓延を防ぐ努力をしている時に、この日本メディアの報道姿勢は、如何なものか。
 その理由として考えられるのは、日中国交正常化前の「日中記者交換協定」(中国に不利な情報はできるだけ日本で流さない)の“亡霊”が未だに生きているからだろう。或いは、日本メディアは、国交正常化後に締結された「記者交換取極」に依然、縛られているからではないか(おそらく自己規制を行っているのだろう)。
 万一、我が国にも「アフリカ豚コレラ」が侵入し蔓延したらどうするのか。マスコミは今こそ、同ウイルスの脅威について警鐘を鳴らすべきではないのか。
 いずれにせよ、日本のメディアは、かかる“偏向”した報道姿勢を正す時期が来ていると思われる。