澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -345-
2018年「中央経済工作会議」概要

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2018年)12月19日~21日にかけて、中国では(翌年の経済運営方針を打ち出す)「中央経済工作会議」が開催された。共産党の重要会議の1つである。
 実は、近年、同会議の開催時期が以前より遅い傾向にある。それはなぜか。おそらく、党内で話し合いがすぐにまとまらないからだろう。「習近平派」と「反習近平派」の間での“折り合い”がなかなかつかないのではないか。
 さて、同会議の内容は多岐にわたるので、ごく一部分だけ紹介したい。
 まず、第1に、同会議では、冒頭、「今年、経済で結果を出すのは難しかった。同時に、経済運営が変化して不安化し、外部環境は複雑で深刻であり、経済は下押し圧力に直面している」と中国経済の実態を率直に述べている。その点は評価に値しよう。
 景気減速の中、習政権は経済成長を模索している。しかし、政治優先の「国有企業重視政策」では、今後、景気浮揚は不可能に近いのではないか。
 「外部環境は、複雑で深刻」とは、無論、「米中貿易戦争」の事を指す。ところが、現在、中国の景気が悪化しているのは、そのためだけではない。
 国内要因―中国共産党は「アフリカ豚コレラ」の蔓延を未だ阻止できず、何十万頭、何百万頭の豚が殺処分され、豚肉の値段が高騰―も忘れてはならないだろう。
 だが、日本の一部メディアは、何でも中国経済の減速と「米中貿易戦争」を結び付けたがる。あるメディアなどは大気汚染悪化と「米中貿易戦争」を結び付けていた。どういう因果関係があるのか知りたいところである。
 第2に、同会議では「マクロ政策は、積極的な財政政策と健全な金融政策を継続して実施する」という。
 前者は、減税等で消費を喚起する。あるいは、輸出還付金(=輸出補助金)で輸出を伸ばすという意味だろう。
 後者については、中央政府は財政赤字(地方政府・国有企業の赤字を含む)がGDPの300%以上もあるので、カネが国庫にほとんどない。そこで、北京は輪転機で盛んに人民元を刷っている。
 中央銀行は(表面的には豊富な)外貨準備高で、何とか人民元を1米ドル7人民元(心理的節目とされる)という元安にならないように、毎日、苦心している状態ではないか。
 第3に、同会議では「サプライサイド構造改革は清算を加速するために過剰設備産業を促進する。より質の高い企業を育成する」と主張している。
 けれども、習近平政権は口では、官から民へという“小さな政府”を目指す「サプライサイド経済(学)」を標榜しているが、実際の政策は国有企業を優先し、民間企業を圧迫している。
 同会議で謳われている内容と“真逆の事”(民から官へという“大きな政府”を目指す)を行っているので、成長は望むべくもないだろう。
 第4に、来年の重点政策は、以下の7項目である。
 (1)製造業における質の高い開発を推進する。(2)強い国内市場の形成を促進する。(3)農村活性化戦略を確実に推進する。(4)地域協調開発を推進する。(5)経済システム改革を加速する。(6)全方位対外開放を推進する。(7)国民生活を保護し、生活向上を強化する。
 これらは非常に抽象的なので、一部具体策を挙げてみよう。
 (a)「ゾンビ企業」の処理を速める。
 最低でも2000社存在すると言われる「ゾンビ企業」を倒産させる事は決して容易なことではあるまい。
 (b)5G(第5世代移動通信システム)の商業ペースを加速する。
 ファーウェイ(華為技術)やZTE(中興通訊)は、中国の発展に欠かせない。したがって、米国の要請で、ファーウェイCFOの孟晚舟がカナダで身柄を拘束されたり、ファーウェイと関係が深い、天才物理学者、張首晟が自殺(他殺説も浮上)したりしたのは、北京にとっては痛手だっただろう。
 (c)民間企業家の身の安全と財産を守る。
 例えば、「明天系」の蕭(肖)建華である。中国公安が蕭を香港フォーシーズンホテルから身柄を拘束し、大陸へ連行するのはいかがなものだろうか。現在もなお、失踪した蕭の状況は不明である。
 (d)アルゼンチンにおけるG 20米中首脳会議のコンセンサスの上に、米中経済協議を促進する。
 既報の通り、習近平政権は米国産大豆を150万トン以上輸入した。また、米国産車の輸入関税を40%から15%への引き下げを検討している。
 (e)大学卒業生、農民工、退役軍人や他のグループの雇用を解決することに重点を置く。
 これらを解決するためには、習政権は新しい産業を興して、雇用を増やさねばならない。だが、実際、これは容易ではないだろう。とりわけ、中国共産党としては、退役軍人の生活改善が急務ではないか。さもないと、北京政府は彼らの存在が“脅威”となるに違いない。