澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -349-
米日印豪と英仏による「対中包囲網」の形成

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 周知の如く、中国は南シナ海を目一杯「九段線」で囲むようにして、自己の領海だと主張している。特に、習近平政権成立後、南シナ海では、中国軍の行動が活発化した。そして、中国共産党は一部の島を軍事要塞化し、環礁を人工島へ変貌させている。
 米国は、オバマ政権時代、「アジア回帰」を謳ったが、それは単なるポーズに過ぎなかったようである。同政権は、事実上、南シナ海を“中国の海”と認めた観があった。
 ところが、トランプ政権が成立すると、米国は中国に対し、強硬姿勢へと転じた。ワシントンは、これ以上、北京のやりたい放題にさせてはならないと考えたのだろう。さもないと、米国の(広い意味での)国益が中国共産党に侵害される恐れがある。
 さて、2012年12月、第2次安倍政権は「セキュリティ・ダイヤモンド」構想を掲げて登場した。これは自由・民主主義を旗印として、米国ハワイ・日本・インド・オーストラリアを結び、中国の“膨張”を抑えようとする構想である。おそらく、トランプ政権下の基本戦略は、安倍政権の「セキュリティ・ダイヤモンド」がベースになっているのではないか。
 今後、インド・オーストラリアには、更なる海軍力向上が期待されている。そうすれば、「セキュリティ・ダイヤモンド」が、より強固となるに違いない。
 一方、近年、英国とフランスがインド・太平洋地域で海軍を展開している。
 イギリス(目下、EUからの離脱、いわゆるBrexitの先行きは不透明)は、海外に十数の軍事基地を持つ。特筆すべきは、南シナ海に面するシンガポールとブルネイに英軍基地が存在している点ではないか。したがって、イギリス海軍が、インド・太平洋地域で軍事プレゼンスを高めようとするのは、ある意味、自然だろう(ちなみに、インド洋に浮かぶディエゴ・ガルシア島は英国が領有しているが、ロンドンは今も米国に同島を貸与している)。
 ところで、意外にも、フランスがインド・太平洋地域に強い関心を持ち、同地域に海軍を派遣している。英国とは違って、フランスはインド・太平洋地域に軍事基地を保有していないはずである。
 それにもかかわらず、昨年(2018年)5月、仏「ディクスミュード」(ミストラル級強襲揚陸艦)とフリゲート艦が、南シナ海の南沙諸島を航行した。なぜ、フランスが南シナ海にまで海軍を展開するのだろうか。
 今日、ベトナムが中国の“膨張”に手を焼いている。しかし、同国の海軍力は弱く、到底、中国には対抗できない。そこで、かつての宗主国、フランスがベトナムを側面支援しているのか。
 それとも、フランスはドイツと並ぶEUの盟主であり、かつ5大国の一国としての矜持から、南シナ海まで海軍を派遣しているのだろうか。
 昨年、フランス通信社 (Agence France-Presse =AFP)の「南シナ海でフランスが軍事プレゼンス強化、中国に対抗」(2018年6月15日付)という記事によれば、同地域での仏海軍展開理由は次の通りである。
 実は、マクロン政権誕生以前から、フランスはすでに中国の「拡張主義」に対抗していた。2014年以降、国際ルールに基づき海の秩序を守る一環として、仏海軍は南シナ海を定期的に航行していたという。
 また、2016年には、当時のジャン=イヴ・ル・ドリアン国防相(現、外務大臣)が、他の欧州諸国の海軍に対し、定期的に目に見えるプレゼンスを南シナ海で展開するよう呼び掛けている。
 ただ、フランスは、自由航行の確保という理由以外にも、ニューカレドニアや仏領ポリネシアを含む太平洋に広がる5仏領の自国市民の利益を守る必要があるだろう。
 ところで、ASEAN諸国は、必ずしも対中一枚岩ではない。「親中」の国もあれば「反中」の国も存在する。また、ベトナムのみならず他の「反中」国も、中国と比べ、海軍力が見劣りする。
 そのため、米国を中心として、日印豪、および英仏が協力して南シナ海で中国軍の動きを封じ込めなければならない。かつて、米国の対ソ「封じ込め」政策の対中バージョンである。
  現在、習近平政権は、不景気で呻吟している。その打開策として、南シナ海で軍事行動を起こさないとも限らない(依然、北京の1番のターゲットは台湾ではないか)。米日印豪英仏は、一致団結して中国の野望を挫く必要があるだろう。