「米中貿易交渉の行方」
―知的財産権侵害と「一帯一路計画」破綻で対米優位は不可能―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 中国は対米貿易交渉が妥結したとしても、貿易において二度と対米優位に立つことはないだろう。これまで、貿易は2国間で五分五分に儲けているものと思い込んできた。しかしトランプ氏の言い分では米側が40、中国側が60儲かるように、貿易システムが歪んでいたという。目下はこのシステムをぶち壊してやり直そうというところだ。
 加えて、トランプ氏が腹を立てているのは知的財産権の盗難だろう。開発に何百億ドルもかかった機械をタダで持って行かれては、大国といえども敵わない。
 昨年末に開かれた米上院司法委員会でグラスリー委員長は「知的財産権侵害の50~80%は中国の仕業だ。米国へのサイバー攻撃で見れば、経済スパイは9割以上が中国だ」と糾弾した。米国防総省報告書は11年、既に「ファーウェイや中興通訊(ZTE)は人民解放軍と密接な関係がある」と指摘している。15年にはオバマ大統領が「サイバー攻撃をやめなければ制裁を科す」と警告したが無視された。18年になって「米国防権限法」が成立し、政府や軍拠点で特定の中国製品の使用が禁止された。
 米国がファーウェイ排除に懸命になっているのは、中国がファーウェイを最大限有効に使うと5Gの次元で米国より優位に立ってしまうからだという。議会の超党派諮問機関(USCC)は「中国が5Gの国際標準を握れば、中国政府が米国内の情報を収集する広大な権限を得ることになる」と警告している。
 通信基地局の世界シェアはファーウェイと中興通訊(ZTE)を合わせて世界の30%(17年)にも達する。中国の5G投資は4000億ドルで、これが確実に実行されると、中国が圧倒的優位に立つかも知れない。
 富も技術もかっぱらい放題で軍事拡張を行い、その威圧感で周辺国をなびかせる。その象徴が一帯一路計画だろう。これは世界中で道路、鉄道、橋、港湾など土木工事を起こし、景気を刺激する政策だが、今は世界中の工事が破綻し始めた如くである。スリランカのハンバントタ港は借入金が膨大になり過ぎて、財政が破綻。この結果、港の権利を中国に譲るハメになったが、これはサラ金の手口そっくりだ。マレーシアは半島を北部から南に貫く鉄道計画を作りつつあったが、昨年選出されたマハティール首相は「我が国の必要性を超えている」と計画を中断した。
 30兆円もの貿易黒字が潰され、一方で一帯一路の諸計画が破綻すると中国の“金欠病”はかなり深刻なものになるだろう。
 中国銀行は外貨を裏付けに人民元資金を発行する。これを国有銀行などを通じて融資するのが中国モデルだが、資本が流出し過ぎると海外から外資を借り入れないと外資準備額が減ってしまう。ドル資産の裏付けなしに人民元を発行すれば、人民元の信用がなくなる。今は信用を左右する危うい領域にいる。大技は打てない。
(平成31年2月20日付静岡新聞『論壇』より転載)